2022 Fiscal Year Research-status Report
発展途上国における経済のグローバル化と地域間労働移動
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21K01478
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
齋藤 久光 北海道大学, 公共政策学連携研究部, 教授 (30540984)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 経済のグローバル化 / 労働移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,インドネシアを事例に,貿易自由化が国内の労働供給に与える影響を考察するものである.発展途上国で輸入関税が削減され,熟練労働集約的な輸入中間財が安価に供給されると,地場企業は中間財の生産に必要であった熟練労働を節約し,未熟練労働を集約的に用いる生産体制を取ることができる.ただし,高品質な中間財の取り扱いには熟練労働が必要となるため,逆に熟練労働を集約的に用いる生産へ移行するとの研究成果も見られる.実際,本研究を補完する目的で,多国籍企業のインドネシアへの参入が,地域の雇用に与える影響を職業別に分析したところ,多国籍企業が立地する地域では熟練労働への需要が高まることが示された.このように,経済のグローバル化は国内の労働市場,特に労働需要に大きな影響を及ぼすが,その影響は職種によって異なる.本研究では,そうした労働需要の変化に国内の労働供給がどのように対応するのか,輸入関税の削減と労働移動の関係を,労働者の技能や職業別に定量的に評価することで明らかにする. 令和4年度は前年度に引き続き,実証分析に必要なデータを整理した上で,モデルの推定を始めた.労働移動の分析には,同じ労働者に対する複数回の調査が必要になる.そこで本研究では,米国のランド研究所が実施した『インドネシア家族生活調査』のパネル個票データを用いて分析を行う.具体的な作業としては,労働者の居住地と就業状況のデータを年ごとに整理し,各労働者が期間内に労働移動を行ったか,職種を変更したかを表す変数を作成した.また,移動前の労働者の特性として最終学歴をまとめた変数も作成した.最後に,変数の妥当性を確認するため予備的分析として,職種の変更と最終学歴の関係性を確認し,学歴が高い労働者ほど熟練職に就く傾向にあることを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
経済のグローバル化が発展途上国内の労働供給に与える影響について,既存研究では,輸出機会の拡大が農村から都市への未熟練労働移動をどの程度促すのか分析するものがほとんどであった.しかし,中所得国では賃金上昇により労働集約的な生産の優位性が失われつつあり,経済発展を続けるためには熟練労働の供給拡大が欠かせない.本研究は,輸入関税の削減が熟練労働の移動をどの程度促すのかを明らかにすることで,中所得国の経済発展に必要な政策について考察することを目的としている. 令和4年度は,モデルの推定に向け着実に準備を進めただけでなく,本研究課題の重要性を分かりやすく示すため,多国籍企業の参入により,インドネシア国内の労働需要がどう影響を受けたのか,職業別に分析を行った.分析の結果,多国籍企業が集約的に用いる熟練労働への需要が高まり,国内の熟練労働市場における競争が激化した結果,地場企業の熟練労働の雇用に負の影響を与えていたことが確認された.この研究は,経済のグローバル化が進む中,熟練労働の安定的な供給が中所得国の持続的な経済発展には欠かせないことを示すものであり,本研究を補完する重要な研究として位置づけられる.
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は,本研究を補完する研究を実施した.さらに,統計データを整理した上で,実証モデルの推定を始めた.令和5年度は,実証モデルの推定を済ませ,論文を執筆する.その上で,これまでの研究成果をまとめ,中所得国が未熟練労働集約的な生産から熟練労働集約的な生産へと移行する上で有効な政策を提言する.
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