2021 Fiscal Year Research-status Report
COVID-19等の経済的ネガティブイベントと時間選好率との関係性の探究
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21K01507
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
細谷 圭 國學院大學, 経済学部, 教授 (40405890)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | マクロ経済動学 / 時間選好率 / ネガティブイベント / COVID-19 / 地球環境問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,動学マクロ経済学において重要な役割が付与される時間選好率の決定に注目する。時間割引に関係する重要性の高い経済的・社会的課題に注目するが,それらに共通するのは経済主体の意思決定に無視できない影響を及ぼすネガティブイベントに分類できる点である。具体的には「COVID-19」「東日本大震災」「地球環境問題」に焦点を当てるが,イベントの進展速度と将来の不確実性の度合いにおいて,これらのイベントの間には著しい違いが存在する。こうした点における違いが時間選好率の内生的決定要因を左右し,結果的に経済のパフォーマンスに大きく影響する可能性があり,理論分析と実証的なチェックによって仮説の検証を試みる。 令和3年度は,サーベイに加え,現在進行で事態が動いているCOVID-19パンデミックについて,具体的な分析に着手した。まず共同研究として種々の実証研究を実施し,第一弾として顕在化した日本の感染症医療の問題点を一般読者向けの論考としてまとめ上げた。次に具体的な政策の効果や影響を確かめるべく,Go To Eatキャンペーンについての分析を行い,投稿準備の段階にある。また,新型コロナをめぐる2021年における大きな動きは,各国でワクチン接種が大幅に進展したことである。ワクチン導入による感染動態への影響や経済へのダメージを検証するため,国際比較分析を実施している。これらから得られる実証的知見は,時間選好率を切り口とした本研究テーマ全体にとってやがて大きな意味を持ってくるものと期待される。 理論研究は,時間選好率の内生化問題をCOVID-19とリンクさせ,パンデミックが生涯消費プロファイルに及ぼす影響を詳細に考察した。ここからは投稿予定の2本の論文を執筆中である。この研究において開発した理論的枠組みは,今後本研究テーマ全体を深めていくうえで基盤的な役割を果たすと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究はかなり順調に進展していると思われる。令和3年度における公刊業績は2点である。一つは新型コロナウイルス感染症がもたらした多面的問題に包括的にアプローチした『コロナショックの経済学』(宮川努編著,中央経済社)に採録された「コロナショックと日本の医療体制」(増原宏明・信州大学経法学部教授との共著)である。この論考を基礎として,派生的な研究をいくつか行ったが,“Convergent Movement of COVID-19 Outbreak in Japan Based on SIR Model”(増原宏明・信州大学経法学部教授との共著)は国際査読雑誌(Economic Analysis and Policy, Vol. 73, pp. 29-43, Elsevier)に掲載された。海外雑誌に掲載された日本のパンデミック研究としては,比較的初期の貢献として位置づけられる。 COVID-19関連の実証研究は,これら以外に現時点で3本の論文において展開されており,いずれも国際査読雑誌での公刊を目指している。 内生的時間選好率に直接関係する,数値解析を含む理論的研究についても大きな進展がみられた。中核的な成果は,経済主体が被る健康ダメージが主観的な時間選好率を左右するという先行研究で試みられた興味深い分析枠組みについて,政府部門を含む形での拡張に成功したことである。政府の有無によって主要な結果に本質的な変化がみられるが,政府を含むことで公的な感染症対策投資をモデルに実装できるようになるという大きなベネフィットが得られる。これにより,パンデミックと感染症対策の関係が経済主体の長期的な厚生に及ぼす影響も具体的に把握可能となるのである。このようなモデルをベースとした理論的論文の執筆に着手できたことも令和3年度の大きな成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
ここでは特に令和4年度の研究プランについて述べたい。研究プロジェクトの第2年目は,依然として分析の緊急性が高く,社会的にも大きな意義が認められるCOVID-19関連の研究に優先的に取り組む。すでに着手済みの3本の論文を完成させ,それらの公刊を実現させたい。また,国内の公的機関から日本におけるCOVID-19問題をテーマとした論文の執筆を依頼されており,令和4年度内の刊行物として企画されていることから,これについても適切なエフォートを配分して完成を目指すことになる。 次に,「内生的時間選好」「健康ダメージ」「COVID-19」そして「生涯消費」をキーワードとした理論的研究(数値解析を含む)については,現時点で2本の英語論文が投稿準備段階にあるため,これらを公刊に近づけることも今年度の具体的な目標である。さらには,この分析枠組みを大規模自然災害や地球環境問題の分析に使用できるように工夫を施す必要があるが,そのための準備作業を行いたいと考えている。文献の綿密なサーベイ,とりわけ時間選好率との関係性を分析している先行研究を詳しく調査したい。 今年度も実証研究と理論研究のバランスに配慮しながら,ネガティブイベント研究全体を着実に推進させていけるように努力したい。
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Causes of Carryover |
次年度の配分額は今年度に比して少ないが,すでに年度のはじめに投稿の予定があり,その諸経費(英文校正料および投稿料)に(B-A)を充当するのが適当と判断し,事務用品購入等による使い切りを行わなかったため。
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Research Products
(4 results)