2021 Fiscal Year Research-status Report
倒産法制における損害賠償請求権の責任負担の在り方についての経済学的研究
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21K01508
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
瀬下 博之 専修大学, 商学部, 教授 (20265937)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | Extended Liability / Judgment Proof Problem / Entry Deterrence / 民事債権 / 倒産法制 / 優先弁済ルール |
Outline of Annual Research Achievements |
企業の民事上の損害賠償等の請求権とその企業に融資されている優先債権との関係について、通常の法制度では、優先債権に劣後することになり、しばしば十分に弁済されないという問題がある。そこで、企業が倒産してその全額の支払いが不可能になった場合に、民事上の請求権の支払いをその企業の優先債権者に強制的に負わせる(Extended Liabilityと呼ばれる)法制度の在り方を効率性の観点から検討した。 企業が公害や薬害などの民事上の損害を発生させる可能性があり、それを抑制するための非金銭的な負担(理論モデルでは企業の損害発生を防止させるための努力として分析されている)の関数が企業ごとに異なる状況を前提とし、その費用の違いを債権者が観察できる場合と観察できない場合を想定して分析した。そこでは通常の倒産法制における有限責任の下で、未払い分の民事上の請求権についてすべて免責される場合も、その一部または全部の責任を優先債権者に負わせるExtended Liabiltyの制度でも、最善(First best)の努力水準および企業の参入を達成させることはできない。 そこで、代わりに次善(Second Best)の制度の在り方として、未払いの民事上の請求権のうち、0%および100%も含めて、どのような割合で優先債権者に負担させることが望ましいのかを検討し、企業の防止努力の関数を優先債権者が観察可能な状況では100%の割合で優先債権者に負担させることは望ましくはなく、せいぜい一定割合だけを負担させるPartial Extended Liabilityが望ましいことを示した。また観察できない場合には100%の割合で負担させることが望ましいケースもあるが、Partial Extended Liabilityが次善のルールとして採用される場合があることも確認した。これらの発見は倒産法制における民事上の債権と金融取引における債権の優先劣後関係の在り方について、重要な視座を与えるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ感染症の影響で、十分な聞き取り調査や資料、データ集などが行えておらず、この部分では研究はかなり遅れている。ただ理論的な部分では、当初予定していたよりも早く、民事上の請求権の倒産法制における処遇についての議論を整理することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
諸外国の制度や運用状況についての理解を深めつつ、Extended Liabilityルールの日本の倒産法制への適用の可能性について検討を進め、過去の事例等も取り上げながら議論を整理する予定。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染症の拡大のために、予定していた聞き取り調査や国際学会などへ渡航禁止の措置などのため、一部のオンライン以外では実施できなかった。また、資料整理やデータ収集などに従事するためのアルバイト等の研究補助者の採用でも制約等が多く、十分に進められなかった。さらに、物流の混乱や半導体不足などで、必要な物品等の購入も滞った。
感染状況等に留意しつつ、研究補助者の採用を進める予定。感染症が収束し、渡航禁止の措置などが解除されれば、海外の研究者や実務家等への聞き取りや資料収集、国際学会等への参加で支出する予定である。また、必要な物品の購入を積極的に進める予定。
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Research Products
(1 results)