2021 Fiscal Year Research-status Report
Program evaluation of non-pharmaceutical interventions against CIVD-19 combined with voluntary preventive behavior
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21K01522
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岩本 康志 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (40193776)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 新型コロナウイルス感染症 / 政策評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、感染症対策が経済社会活動に多大な影響を与えたことから、「実際にとられた対策は、健康と経済のトレードオフ、および健康と自由のトレードオフのもとで、適切に行われてきたか」を問う。初年度の2021年度は、(1)活動制限による自由の制約の費用を把握する概念枠組み、(2)タスクモデルによる感染症対策の経済的影響の把握、(3)社会ネットワーク構造による感染症流行パターン、を検討した。 自由を制限することの費用として、経済活動の低下は重要な要素であるが、それを超えて自由を制限することの費用の概念を整理した。自由主義・自由市場主義の立場からは、市場経済には社会に分散する知識をよりよく利用できる価値があるが、感染症対策ではこの側面からの損失の深刻さは見受けられない。非帰結主義の立場からは、選択肢が奪われることが費用と考えることができるが、その貨幣価値化は未解明であり、今後の研究課題である。 消極的自由を保証しながら感染症対策をおこなうには、感染予防における個人の利他的行動が重要となる。しかし、現実の運用では、対策に協力する費用を高めることで、人々の協力を失わせる方向に働いた。法改正で罰則を導入することで利己的動機によって協力を担保しようとしたが、このことは逆に人々の利他的行動を阻害し、社会秩序を棄損するおそれがあることを指摘した。 活動制限の影響の異質性の分析では、タスクモデルを用いて、感染リスクと付加価値のタスク間の相関関係に基づいて評価することが有用である。両者が逆相関にある場合、低所得者の従事する活動を大きく縮小させることが効率的となるので、別に所得再分配政策をとることによって、負担を全体で平準化することが政策上、重要であるという帰結が導かれた。 また、社会ネットワーク構造で個人の活動量が異質なモデルで現れる局所的集団免疫効果を、簡潔に表現する方法を整理した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である2021年度の研究は、「実際にとられた対策は、健康と経済のトレードオフ、および健康と自由のトレードオフのもとで、適切に行われてきたか」という問いに対する理論的基礎の構築が主眼となる。これについて、「新型コロナウイルス感染症と経済学」で、健康と自由のトレードオフの概念整理をおこない、学術誌に発表した。また、「コロナ禍の経済的被害」で、タスクモデルに基づく感染症対策の影響の異質性の含意を検討し、研究会議で発表した。 本研究課題全体の理論的基礎となる「Welfare Economics of Managing an Epidemic: An Exposition」(査読付き)を学術誌に発表した他、「感染症対策の厚生経済学:都市封鎖の事後評価」で一律活動制限の事後評価の現状と課題を展望し、「感染症対策の厚生経済学:外部性と公衆衛生的介入」で公衆衛生的介入の根拠に関する議論をおこない、「感染症対策の厚生経済学:局所的集団免疫」、「同付録 ネットワークSIRモデル」で社会経済活動の異質性が感染症流行パターンに与える影響を議論し、この他、概説論文1本を雑誌に発表するなど、順調に研究成果をまとめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度はほぼ予定通りに進行となったので、2022年度はほぼ当初計画通りに研究を推進する予定である。これらは、集計量を用いた厚生損失と活動収縮の不均一を考慮した厚生損失を推計、事業者への営業制限による厚生損失の評価、民間の内生的予防行動による影響も含めた損失に対する補償の体系、等の理論的考察と、国と地方による営業自粛要請の実施に関する事例研究である。 若干変更が生じるのは、感染症対策の異質性の把握を、当初は産業別データをもとにおこなう予定であったが、初年度の研究でタスクモデルを用いるという着想をあらたに得たため、産業別にデータを集計することによる誤差の把握をする必要が生じたことである。このため、2022年度における異質性の分析の進捗が遅れる可能性があるが、最終年度までに所期の成果をあげるように努力する。タスクデータによる分析の可能性の検討をおこなう可能性がある。
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Causes of Carryover |
消耗品と資料の経費が予算枠を若干下回ることになり、600円未満の未使用額が生じた。次年度は消耗品経費を増額するが、少額であり研究計画には変更ない。
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