2021 Fiscal Year Research-status Report
高年齢期における就労の長期化・多様化が引退後の健康に与える影響
Project/Area Number |
21K01530
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
水落 正明 南山大学, 総合政策学部, 教授 (50432034)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 高齢者 / 引退過程 / 認知機能 / 縦断調査 / 新しい経験 / 因果推定 |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢者の仕事からの引退過程は複雑であり、フルタイムからパートタイムを経て引退したり、フルタイムから直接引退したりする。仕事からの引退がその後の健康に与える影響について、従来の研究では、こうした引退の多様性を十分には考慮してこなかった。そこで本研究は、引退過程の違いが高齢者の健康状態に与える影響について、日本国内で行われた大規模縦断調査の個票データを使って明らかにする。推定にあたっては、引退行動と健康状態の内生的な関係を考慮して、操作変数法による因果推定を行う。 研究初年度は、引退過程で新しい職場で働くことが認知的健康(認知機能)に与える影響について分析を行った。認知機能については、記憶能力(単語の思い出し)、計算能力など複数のテスト結果から主成分分析により計算した認知スコアを用いている。また、フルタイム就業時に認知的に複雑な仕事に就いていたことの効果を見るために、分析対象をフルタイム就業時の仕事の複雑さで分けた分析も行った。 分析の結果、概ね以下のようなものが得られている。第一に、引退過程で新しい職場で働いた場合、同じ職場で働き続けた場合に比べて、認知機能が高い。第二に、新しい職場で働くことによる認知機能への正の効果は、フルタイム就業時に複雑な仕事に就いていた場合に大きい。第三に、こうした引退過程の効果は通常の最小二乗法では検出できず、操作変数法による因果推定で明らかになる。 この研究成果については、国際学会1件として報告され、英文雑誌(査読付き)1件で掲載が決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既に着手していた引退過程と認知的健康に関する研究成果を国際学会(2021年5月)で報告することができた。また、この成果を英文査読付き雑誌に投稿し、2021年10月に掲載が決定した(実際の掲載は次年度の2022年4月となった)。 次の研究テーマとして、日本で長期(約10年)の引退過程がどのようになっているかの分類を始めており、その引退過程によって、その後の健康状態がどう異なるのかについての分析を進めている。この研究成果については、2021年12月に国内学会の地域部会で中間報告を行っており、2022年6月に国内学会で報告することが決定している。 以上のように、現状では順調に研究は進捗していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の進捗はおおむね計画通りであるため大きな変更はない。より多くの視点から研究を評価してもらうために、できるだけ多くの学会・研究会での報告を行っていく方針である。 2022年度内の報告が決定しているのは、国内学会として生活経済学会(2022年6月4-5日)、日本人口学会(2022年6月11-12日)があるほか、国際研究会としてResearch on East Asian Demography and Inequality (Princeton University、2022年8月10日)である。 これらの研究報告でのフィードバックから研究内容を改善し、英文査読付き雑誌への投稿を行う計画である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、2つの国際学会への参加を見送ったため、予算計上していた海外出張を実施できなかった。2022年度もコロナ禍で難しい状況が続くが、国内外の学会・研究会への参加を積極的に行っていく予定である。
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Research Products
(5 results)