2021 Fiscal Year Research-status Report
集団構成員間の異質性を考慮した集合行為問題の、シェア関数アプローチによる研究
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21K01550
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
上田 薫 南山大学, 経済学部, 教授 (40203434)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | Share-function approach / Product Differentiation / Asymmetry / Oligopoly model / Substitutability |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はBoston 大学の小西秀男教授及び法政大学の小林教授と行っている集団コンテストに関する共同研究の継続、シェア関数モデルが適用可能な集計的モデルの一般化に関する研究の進展などがあったものの、公刊に至ったのは紀要に掲載した以下の一本のみであった。これは価格寡占モデルを集計的ゲームとして定式化し、シェア関数アプローチを適用したものである。従来コンテストの分析に用いられてきた標準的モデルは数量寡占モデルと同系統のものだったのに対し、非対称な製品差別化の下での価格寡占モデルにシェア関数アプローチを適用することで、構成員間に異質性を導入したモデルの応用可能性の拡張を試みたものである。
論文 『非対称な製品差別化の下での線形価格寡占モデルへのシェア関数アプローチ』 概要:製品差別化の生じている商品カテゴリー内において価格競争が行われる、線形需要関数価格寡占モデルの分析を、企業間に需要条件および費用条件の双方における非対称性がある場合について試みた。従来の製品差別化寡占モデルでは、各企業の直面する需要条件は対称的なものとする設定が標準的である。需要条件に優劣があるような非対称的製品差別化について明確な結果を得ている研究は乏しく、こうした分析がシェア関数アプローチにより可能になる点を示したことも本稿の意義の一つである。 シェア関数アプローチを適用することで、全ての企業が正の生産・販売を選ぶ均衡が存在するための十分条件を非対称性の限定条件という形で与えた。さらに、そのような均衡における需要・費用の非対称性と価格・生産量・利潤の間の関係を明らかにした。その中で、上述の限定条件を与える際に用いた、企業の潜在力指標が重要な意味を持つことが示された。また、商品間の代替可能性が変化することが限定条件の強さ及び価格・生産量・利潤に及ぼす影響も明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナ感染症の影響、特に夏季休暇の時期に感染拡大のピークとなったことから他地域の研究者との交流が十分に行えず、計画通りの研究の進展は実現できなかった。しかし計画内容である構成員間の異質性を持つ集団に関する公共財の自発的供給(または共有資源の共同利用)および集団間コンテストに関するモデル構築のいずれの方向においても行き詰まりが生じているものは無い。また、シェア関数アプローチを適用可能な集計的ゲームの特徴づけに関する新たなアイディア、それをこれまでの研究と関連付けることで得られる可能性などに手ごたえを感じており、こうした意味で概ね順調と言える。 ①個別報酬制の導入に関して。Boston大学の小西教授、法政大学の小林克也教授との共同研究については、モデルに導入するパラメータに関しさらに一般的な設定が可能ではないかという議論になり、現在検討が続けられている。報告者個人としても、集団に組織構造を導入する可能性に気づき、単純なモデルにより予備的検討を行っている。②危険回避度導入の方向においては、既に公刊した論文のモデルを一般化するために、シェア関数アプローチを適用可能な集計的ゲームの特徴づけというレベルからの検討を行っている。③生産・収奪モデルの集団 間紛争への拡張についても、同様の段階にある。④複数貢献手段導入の方向では、端点解の扱いにおける困難を克服するための凸解析の手法の導入を試みている。
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Strategy for Future Research Activity |
Cornes and Hartley による、シェア関数アプローチが適用可能なゲームの特徴づけの研究から、集団コンテスト並びに公共財の自発的供給のモデルの新たな拡張の可能性について考えるようになった。これは①から③までの全ての研究において有用であるものと期待され、早急に必要な数学的準備を終えたいと考えている。①個別報酬制の導入に関して:Boston大学の小西教授、法政大学の小林克也教授との共同研究について、新型コロナウィルス感染症拡大により遅延傾向にあるが、今年度は論文完成を目指したい。②災害リスク低下への自発的貢献モデルについて:最初に述べた研究を通じ、集団内の異質性を考慮したモデルの構築の準備を進めている。③生産・収奪モデルの集団 間紛争への拡張について:これも前項と同様である。④複数貢献手段導入の方向について:複数貢献手段の導入したモデルにおいて、個人がいくつかの貢献手段への努力の投入をゼロにする端点解のケースを処理するための数学的準備を進展させたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の影響、特に夏季休暇の時期に感染拡大のピークとなったことから、当初計画していた研究打ち合わせのための旅行等を見送らざるを得ず、消化しきれない予算が発生した。2022年度において資料費として消化する予定。
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