2022 Fiscal Year Research-status Report
The labor market friction and the self-selection bias in the corporate debts
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21K01565
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
鷹岡 澄子 成蹊大学, 経営学部, 教授 (10361677)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | クレジット・リスク / 労働市場の摩擦 / 社債 / 期間構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、本邦社債市場の社債発行と年限選択という2つのセルフ・セレクション・バイアス (i)投資適格以上の格付を有する比較的大企業に限定されるという発行体標本の偏り、(ii)長期債を選択可能な発行体が限定されることによる年限標本の偏り、をモデル化したうえで、そのような発行体グループ間の特性の差が労働市場の摩擦に起因しているのかを解明することである。 初年度に構築したデータセットを用いて、社債発行年限と発行額、社債発行企業のクレジット・リスクを様々な観点から実証分析を行った結果、主に以下の点が分かった。人件費が増加するほど負債に占める銀行融資の割合が大きくなる。これは、先行研究(Favilukis et al. AER 2020)にあるように、労働誘発営業レバレッジによって決定されたリスクによって、企業のクレジット・リスクが上昇し市場からの資金調達コストが上昇することが理由として考えられる。ただし、先行企業では日本企業は国際パネルデータから欠損しており、労務債務が日本企業のクレジット・スプレッドの顕著な決定要因かつ上昇要因であることは示されていない。 本研究における日本企業データを用いた推定では、労務債務増加が企業のクレジット・スプレッド上昇要因となるという結果は現時点では得られていない。産業による違いが観察され、クレジット・スプレッドの上昇要因となる産業もあるが、反対に、クレジット・スプレッドの低下要因となる産業もある。労務債務増加がクレジット・スプレッドの上昇要因となる産業においては、社債発行額は労務債務が増えるほど減少する。これらの結果は資金調達コストの観点から整合性がある。 社債の発行年限選択では、長引く金融緩和による超長期発行が散見されるも、信用格付が高い企業が長期債発行を増やしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に作成したデータセットを拡張し、今年度は労務債務が与える影響について分析することが出来た。先行研究(Favilukis et al. AER 2020)で日本企業が国際パネルデータから欠損しているため、先行研究で示されている労務債務がクレジット・スプレッドの決定要因(上昇要因)であることを調べた。全サンプルを使用した結果、労務債務がクレジット・スプレッドの決定要因であるとは示されなかった。ただ、産業による差がある。また、日本の雇用慣行は欧米(特に米国)とは異なることから、必ずしも先行研究と同じ推定結果になるとは限らないと思われる。 日本企業のクレジット・スプレッドを使用し、企業の労働環境などとの関連性を調べた論文を今年度は執筆した。既にワークショップ(海外)で報告され、ESG絡みもあって、人々の企業の労働環境の評価への関心の高さが感じられた。同論文は学会(国内)でも報告予定であり、今後、改訂していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に拡張したデータセットを用いて、日本企業のクレジット・リスクにおいて労務債務がどのように評価されているのかを丹念に調べていく。現時点では、先行研究が日本以外の企業を用いて示した結果とは異なる結果が出ている。そのような結果の違いを生み出す日本特有の雇用慣行を分析に入れるとともに、企業や産業の特徴を考慮にいれていく。 また、先行研究(Favilukis et al. AER 2020)では労務費上昇はクレジット・リスク上昇という関連性であったが、長期間に渡り賃金上昇率が低い日本では、労務費上昇は事業拡大や人的資本投資拡大などポジティブなシグナルとなっている可能性もある。銀行融資額も分析に入れて、労務費上昇している企業は資金調達需要が旺盛なのかも検証し、企業負債との関連を包括的に分析する。
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Research Products
(1 results)