2021 Fiscal Year Research-status Report
Term structure models in finance
Project/Area Number |
21K01586
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
神楽岡 優昌 武蔵大学, 経済学部, 教授 (40328927)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | スポットレートの期間構造 / イールドカーブ・コントロール / 確率微分方程式 / カルマンフィルター |
Outline of Annual Research Achievements |
日本国債から推定されるスポットレートの期間構造を3次Bスプライン関数,Nelson-Siegelモデル,Laguerre多項式の3つの手法により推定した.Nelson-SiegelおよびLaguerre多項式はパラメトリックなモデル化であり,日本のスポットレートの期間構造の推定には適切でないことが明らかになった.これは日本銀行が2016年に導入した新しい金融政策「イールドカーブ・コントロール」の影響と推察される.伝統的な金融政策が短期金利の操作を目的としているのに対し,イールドカーブ・コントロールは,日本銀行があらゆる年限の日本国債を買い入れることにより,満期期間が10年までの金利をゼロ近辺に保つことを目的とした. 上述の結果に基づいて,イールドカーブ・コントロールが国債金利の期間構造にどのような影響をあたえたかを解明することを試みた.最初に,日本銀行が主として残存期間が12年までの国債を買い入れていること,国債から推定したスポットレートの期間構造がゼロ近辺に保持されていることを明らかにした.続いて,イールドカーブ・コントロールの効果を定量的に分析するために,Jarrow and Li (2014) [Review of Derivatives Research 17 (3), pp. 287-321] のモデルを修正して適用した.中央銀行の金融操作があった場合と無かった場合それぞれのイールドカーブの時間変化を確率微分方程式で表現し,未定パラメターをカルマン・フィルターにより推定した.実証分析結果は,イールドカーブ・コントロールにより,スポットレートの期間構造が1年あたり1.7553%低下したことを明らかにした.さらに,日本銀行の国債買い入れ金額(累積あるいは10日当たり変化)とスポットレート変化の間の定量的な分析を試みたものの,モデル・パラメターは推定できなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の1年目では,金利(スポットレートあるいはフォワードレート)の期間構造を対象に,パラメトリック・モデルでよく使われているNelson-Siegelモデルと比較して,Laguerre多項式の有効性を分析することを目標とした.2000年から2021年の国債価格データから,両者のモデルに加えてノンパラメトリックな3次Bスプライン関数も適用し,金利の期間構造の推定手法の比較,フォワードレートとスポットレートの両方の期間構造のダイナミクスのモデル化をおこなった.実証分析の結果,日本銀行の金融政策により金利の期間構造が恣意的な変化をしていることが判明した.そこで日本銀行の金融政策がイールドカーブにあたえた影響の評価もおこなった.数学的なモデル化だけでなく,現実社会の問題である日本銀行の金融政策の定量的評価を行っており,実社会へ還元できると期待する.研究成果はディスカッション・ペーパーとして作成し,改訂中である.以上のように当初予定した研究は完了しており,進捗状況が順調であると判断する. ただし,研究開始前には有効なモデルと期待したNelson-Siegelモデル,Laguerre多項式が,日本銀行の新しい金融政策「イールドカーブ・コントロール」のため,適合が良好ではなくなったことが,今後の課題の1つである.また,イールドカーブ・コントロールの影響はその政策の実施の有無を区別した定性モデルしかパラメターの推定ができなかった.オリジナル・モデルとして,日本銀行による国債買い入れ額,あるいは,その増加分を状態変数に加えて採用し,数値積分を適用して,スポットレートあるいはフォワードレートの確率微分方程式のパラメターの推定を試みたが,有意なモデルは構築できなかった. いずれにせよ,これらの課題は当初の目標を越えた難しい課題であり,プロジェクトが遅延しているとは言えないだろう.
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Strategy for Future Research Activity |
ファイナンスの研究テーマとして取り上げられる期間構造のモデル化を,1つの金融資産に限定して議論するのではなく,異なる金融資産を対象に横断的に研究することを本研究は目的としている.第1フェーズの金利の期間構造の研究を終了している.今後は, (A)クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)から推定されるデフォルト強度,あるいは,(B)コモディティーの先物価格から推定されるコンビニエンス・イールドを対象に,それらの期間構造のモデル化と推定方法の開発に取り組むことを計画している.現在,CDS(reference entity別)および商品先物価格(商品別)のデータベースの収録状況などを改めて調査中である. デフォルト強度あるいはコンビニエンス・イールドの期間構造について,静的な(満期に関してdeterministic)関数形を仮定するNelson-Siegelモデル,および,Laguerre多項式を適用する.引き続いて推定された期間構造の時間変動を対象に主成分分析をおこない,ダイナミック・ファクター・モデルを構築することを計画している. 期間構造の時間変動については,上述の静的でパラメトリックなモデルに加えて,確率微分方程式で表現されるダイナミック・モデルであるCox-Ingersoll-Rossモデル,指数Vasicekモデルを適用して推定し,ダイナミック・ファクター・モデルと比較・分析することを計画している. 分析対象マーケットは,CDSについてはソブリンとコーポレートを,商品先物については原油先物を候補としている.ただし両者ともCovid-19やロシアのウクライナ侵攻の影響を受け,デフォルト強度やコンビニエンス・イールドの時系列が定常過程から逸脱しているおそれもあり,慎重なデータ・ハンドリングとモデリングが必要である.ジャンプ過程などへの拡張も排除しないこととする.
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Causes of Carryover |
第1にCovid-19の影響により,海外のコンファレンスへの参加を見送ったために海外旅費の支出がなかったためである.第2に,複雑なモデル化を2年目以降におこなうため,処理能力の高いワークステーションの購入を2年目にずらしたことによる. 予備分析および実証分析を予定している8月に合わせてワークステーションを購入する予定である.海外旅費については今後のCovid-19の感染状況による.
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