2022 Fiscal Year Research-status Report
明治維新期における鴻池屋善右衛門家の経営と藩債処分の影響に関する実証的分析
Project/Area Number |
21K01601
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
小林 延人 東京都立大学, 経営学研究科, 准教授 (80723254)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 明治維新 / 経営史 / 金融史 / 鴻池屋善右衛門 / 会計基立金 / 新旧公債 / 大名貸 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は大阪大学経済史経営史資料室にて鴻池善右衛門家文書を撮影し、その一部を分析した。とりわけ、明治初期の「山廣谷長平」に関する経営帳簿の分析を中心的に行った。 「山廣谷長平」とは、鴻池屋(山中)善右衛門、加島屋(廣岡)久右衛門、加島屋(長田)作兵衛、という近世大坂を代表する豪商が、明治維新政府からの業務委託を協力して担うために作った屋号=経営体である。これは、複数の経営体が資金を出し合って事業を創始し、人材、場所、設備、そして経理を共有する類の事業であった。現代社会では大規模なインフラ建設を担うために、複数のゼネコンが合弁事業(ジョイントベンチャー)を結成し、作業工程を終了した後にその事業を清算することがあるが、そのような合弁事業を明治維新期に金融業で実現したのが「山廣谷長平」であったと、現時点では考えている。 この事業の始まりにおいてどのような出資がなされたのか、事業の内容や形態、そして事業が清算された理由やその後の鴻池屋善右衛門家の経営について分析を進めた。撮影分の整理はまだ終えていないが、この分析をもとに学会報告および論文執筆の準備を行っている。 合わせて、鴻池の近世期の貸付が、維新後にどのように処理されたのかという点についても検討を続けている。政府に対する債権である会計基立金証文や新旧公債証書が担保として活用されたことを実証的に明らかにすることで、近代日本における債権保護と債権の流動性について考察を加えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の成果は、共著3本(うち2本は前年度報告済)、学会報告1本に結実している。初年次に実現しなかった史料調査も行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
鴻池善右衛門家文書のなかにはこの「山廣谷長平」の帳簿がまとまって残されている。未撮影分を撮影するとともに、その分析を進める予定である。 テーマとしては、引き続き①公債担保金融の萌芽的な展開、を掲げるとともに、②明治初期における複数の豪商による協業、を新たに設定する。 鴻池など大坂両替商に関する研究は蓄積が厚く、未見の論文・研究書も残っている。研究史上においては、幕末期から明治10年までの分析がほとんど欠如しているという指摘を確認しているが、「山廣谷長平」や鴻池の研究がまったくないわけではない。丹念な先行研究の整理を、次年度以降の課題とする。
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Causes of Carryover |
初年次(コロナ禍)に史料調査を行わなかった分の一部を繰り越すことになったが、旅費(史料調査)や消耗品購入で使用する予定である。
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Research Products
(4 results)
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[Book] 豪商の金融史2022
Author(s)
高槻 泰郎
Total Pages
336
Publisher
慶應義塾大学出版会
ISBN
978-4-7664-2833-9