2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K01603
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
橋口 勝利 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (00454596)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 工業化 / 企業合併 / 地方名望家 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、近代の紡績業の合併と地域形成について研究を進め、2022年3月に単著『近代日本の工業化と企業合併-渋沢栄一と綿紡績業-』(京都大学学術出版会)を出版した。その内容は、近代の日本綿業を事例にしながら、大都市(大阪・東京・名古屋)の工業化と紡績資本の成長を論じながら、中京圏の各地域(知多・桑名・一宮・津島)などで生まれた中小紡績企業の成長と合併過程を論じるものであった。大都市では、近世から醸造業や綿業、肥料業を営んでいた商人が出資して大紡績資本が生まれた。その企業の設立には、渋沢栄一や奥田正香などの企業家の活躍があった。一方で、地域では、地方名望家が地域資産家の利害を調整してその資力を集め、綿紡績企業を設立させた。この綿紡績企業は中小紡績資本として日本綿業界の一角を担うようになった。しかしながら、日露戦後恐慌を経て合併機運が高まると、三重紡や鐘紡を中心に地域の紡績資本を合併することになった。この際には、中京圏の統合を目指す三重紡と、製品の多角化を狙う鐘紡、高付加価値製品の生産を目指す日本紡績という多様な経営戦略が合併に反映され、中小紡績をめぐって激しい争奪戦が展開された。一方で、中小紡績でも、企業役員や株主として参加していた資産家たちの間で、合併先の選択や合併条件の引き上げをめぐって利害の衝突が生じた。つまり、明治期の企業合併をめぐっては、合併企業と被合併企業とでそれぞれの戦略や利害が錯綜していたのであり、そのことが地方紡績の交渉力を高めることにつながった。それゆえ、近代の紡績業は、都市と地方のそれぞれがその特性を失うことなく、工業化の道を歩んでいったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中京財界史の研究を進めるにあたって、名古屋や四日市への資料調査だけでなく、関西地域の資料調査を進めることで、綿紡績業や織物業の文書資料を収集することができた。その資料収集の成果の一部は、単著『近代日本の工業化と企業合併-渋沢栄一と綿紡績業』(京都大学学術出版会)として発表できた。
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Strategy for Future Research Activity |
近代の中京圏の財界研究を、名古屋を中心に一層進めていく。具体的には、第一次大戦ブーム期から1920年代の中京圏の工業化を、その中心となった企業に焦点をあてながら検討していく。その際には、当時最大の綿布商人であった服部商店の経営分析を具体的に進めていく。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、調査活動(名古屋)を延期せざるを得なかった。この調査は、次年度に実施する予定である。
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