2022 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半のイギリスにおける歯科治療と口腔衛生リテラシー
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21K01622
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
梅垣 宏嗣 南山大学, 経済学部, 講師 (50709053)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | イギリス国民健康保険制度 / イギリス国民保健サービス / 歯科疾患 / 歯科治療 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の成果として、20世紀前半における労働者階級の人々の歯科疾患の実態、および、イギリス国民健康保険制度を通じて彼らに提供された歯科治療の実態についてまとめた論文「イギリス国民健康保険制度(1911~46年)における歯科治療:歯科給付をめぐる諸問題」(『社会政策』第14巻第1号、2022年6月、pp. 146-156)が公刊された(※公刊から2年後にオープンアクセス化)。本論文では、口腔状態や歯科治療に対する当時の労働者階級の人々の関心、さらには為政者の関心が高まっていたものの、制度設計の段階では広範な歯科治療を想定していなかったこともあり、国民健康保険制度を通じて提供される歯科治療が限定的で不充分なものであったことや、受けられる歯科治療の内容について、労働者(被保険者)間で格差があったこと等を明らかにした。そして、昨年度に引き続き、国民健康保険制度における歯科治療から国民保健サービス(NHS、1948年~)における歯科治療への移行過程に関する調査に取り組んだ。 他方で、新たに、食生活・食文化と歯科疾患・歯科治療の関係に関する研究にも着手した。この論点については、本研究課題の当初計画では想定していなかったが、20世紀前半における歯科疾患・歯科治療に関する研究を進める中で、当時の医師や歯科医が、食生活と歯科疾患の関係について言及している文献を、しばしば目の当たりにしたことから、関心を抱いた。特に齲蝕(いわゆるむし歯)については、砂糖の消費量との相関関係が19世紀から既に示唆されており、歯科疾患と歯科治療の研究を進めていく上で、食の問題を避けて通ることはできない。「宗教的な理由(戒律など)により砂糖の摂取量が少なく、そのために齲蝕が少ない」層が存在することを示唆する興味深い文献もあり、この論点には、発展の余地が大いにあるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
20世紀前半のイギリスにおける歯科疾患の実態と、国民健康保険制度における歯科治療の具体的な内容をまとめた論文が公刊された。また、国民保健サービス(NHS)を通じた歯科治療の仕組みが成立した過程についての研究も、着実に進行している。すなわち、当初の計画で想定していた主な論点に関する研究については、おおむね順調に進展していると言える。ただし、20世紀前半における国民健康保険制度以外の経路を通じた歯科治療については、上記論文の中でも若干の言及に留まっていることから、さらなる調査・分析が必要である。また、新たに着手した食生活・食文化と歯科疾患・歯科治療の関係に関する研究については、いくつかの興味深い事実の発見があったものの、具体的な研究成果としてまとめるまでには至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
新たに着手した、食生活・食文化と歯科疾患・歯科治療の関係に関する研究については、興味深い論点ではあるものの、早期に研究成果を上げるのは困難であると考えられることから、当初計画の遂行を優先的に進めていく。具体的には、国民健康保険制度(1911~46年)から国民保健サービス(NHS、1948年~)への移行に伴う、歯科治療を提供する仕組みの変化とその移行過程を、引き続き明らかにしていく。また、国民健康保険制度や国民保健サービス以外の経路を通じた歯科治療についても明らかにし、本研究課題の成果として総括する。 なお、2021年度はもとより、2022年度においても、新型コロナウイルスの流行を受けて、海外における資料調査を控えてきた。そのため、今年度までは、過去に現地(主にロンドンのイギリス国立公文書館)で収集した資料をもとに研究を進めてきたが、細かいところで情報の不充分さを感じており、最終年度となる来年度こそは、現地における資料調査を行い、研究成果に反映させたい。
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Causes of Carryover |
前年度に続き、今年度においても、新型コロナウイルスの流行により、海外での資料調査は行わず、旅費として研究費を使用しなかった。その分を、新たな論点(食生活・食文化と歯科疾患・歯科治療の関係)による研究に着手するために、書籍の購入に使用したが、なお余剰が生じた。そのため、余剰分は、次年度の現地資料調査(主にイギリス国立公文書館)のための旅費等に活用する。
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