2021 Fiscal Year Research-status Report
動的構造推定モデルによる番組視聴・広告接触における個人の意思決定と企業行動の評価
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21K01765
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
石原 昌和 中央大学, 企業研究所, 客員研究員 (60896819)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
熊倉 広志 中央大学, 商学部, 教授 (10337826)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | メディア視聴行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
メディア視聴行動における個人の心理、メディアの社会的機能・役割に関する多様な理論を統合しながら、動的構造推定モデルにより、個人や社会におけるメディアの選択・利用を考察する。このとき、内生性と動的変化(時間経過に伴う主体間・要因間の相互作用)に注意する。また、メディア行動として、連続TVドラマの選択と視聴を考える。本研究の僅かな貢献として、多様な分野において蓄積されたメディア研究の成果を統合し、マーケティング研究で注目されつつある動的構造推定モデルを用いて、内生性を考慮しながら、時間的に変化する個人のメディア心理や行動・メディアの社会的機能を定量的に考察することなどが挙げられる。 具体的な分析としては、連続TVドラマの選択・視聴に注目し、1)個人の行動が変化したとき、その内的要因は何か、逆に、心理変容により視聴行動はどう変化するか(たとえば、どのような欲求や効用に基づいてドラマを視聴するか)、また、2)個人の視聴行動が社会全体の集団行動にどう影響するか、逆に、集団行動が個人の視聴行動をどう決定するか(たとえば、ドラマが話題となるとき、個人はそれを視聴し始める)などを、個人間・要素間の内生性に注意しながら考察する。さらに、3)ルーカス批判に対応した反事実仮想により、社会的・実務的示唆を導出する。すなわち、ある要因が変化したとき、他の要因にどう影響するかを予測する(たとえば、放送時間を変更すると、視聴者の番組への欲求が変化し、メディアの社会的機能を通じて、集団の視聴行動が変化する、タイムシフト視聴がドラマ・テレビCM視聴行動にどう影響を与えるか、など)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は研究計画通り研究がおおむね順調に進んだ。まず、先行研究をレビューし、個人・社会のメディア行動について理論モデルを構築した。具体的には、先行研究の成果をもとに以下の要素をドラマ視聴の効用(メディア欲求)としてモデル化した。(1)感情的欲求(番組自体への喜び・楽しみのために視聴する)と社会への統合欲求(番組について職場・学校・ネットなどで話題にすることで、視聴する喜びを得る)を考慮した;(2)メディア欲求により視聴方法は異なるため、視聴方法として、リアルタイム視聴(放送と同時に視聴。以下、RT)とタイムシフト視聴(放送後に録画を視聴。以下、TS)を考えた。このとき、TS視聴による時間効率化や専念視聴などの効用にも注意した;(3)番組のcompleteness(完全性、視聴すれば視聴するほど、視聴による効用が高まる)も考慮した;(4)ドラマは経験材であり、視聴することによりドラマ品質を学ぶと考えられるため、ドラマ視聴によるベイジアン学習をドラマ視聴の効用関数で考慮した;(5)ドラマ視聴中のテレビCM接触からの効用も考慮し、特にテレビCM視聴に対しては、内因的に消費者がライブ視聴とタイムシフト視聴ごとに、視聴割合を決定するモデルを構築した。 また行動(TV番組や広告の選択・視聴)データを誘導形により分析し、理論モデルの妥当性を確認した。これにより、観察された視聴行動が、上述の理論モデルにより説明できるかを確認した。とりわけ上記すべてのモデル要素に関し、視聴行動に影響があることが分析から示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、動的構造推定モデルにより、理論モデルを定式化し定量モデルを構築し、データにあてはめる作業を始める。推定には膨大な計算が必要で、モデルの頑健性も確認するため、月単位の時間を要する計算を複数回実施する。これより2022年度のほとんどを費やす必要がある。なお、動的構造推定モデルDynamic Structural Modelであって、共分散構造分析SEMではないことに注意しよう。 ここでは2021年度の成果をもとに、視聴行動に影響を与える変数として、①ドラマ品質に依拠する効用(感情的欲求)、②他者の視聴による効用(社会への統合欲求。話題性など)、③全話を視聴することよる効用(completeness、完全性)、④広告接触による効用、⑤TS視聴による利便性などの効用を考える。さらに、個人は、前向きな意思決定を行うと考える。すなわち、1回のドラマ視聴だけでなく、初回から最終話まで通じて効用を得ると考え、現在の意思決定が、ドラマ品質の学習や完全性を通じて将来の期待効用に与える影響を考慮する。 ここでは、連続ドラマ(52ドラマ、1年間・4期、プライムタイムに民放で放送)について、個人別・分単位の視聴状況や視聴方法が記録されたデータを用いる(今後、YahooなどSNSに掲出された番組へのコメントを、データとして追加することも検討している)。データを動的構造推定モデルにあてはめ、各要素の効用への影響を顕示選好法により推定する。ここで、ベイズ推定を動的計画法モデルに適応することにより、個人の異質性(たとえば、話題性に反応するか、録画の便利さを重視するか)を柔軟に考慮できる。 2022年度以降には、動的構造推定モデルの推定結果を様々な角度から解釈を行う作業と、反実仮想シミュレーションを行う予定である。
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Causes of Carryover |
2021年度は先行研究の調査・モデル構築・誘導形によるデータ分析に時間を費やしたのと、半導体の供給不足によるコンピュータパーツの価格上昇のため、動的構造推定モデルの推定に必要なコンピュータの購買を2022年度に延期した。またコロナの継続的な影響により、学会がオンラインになるなど出張が減少したため、旅費の経費も計上しなかった。
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Research Products
(4 results)