2021 Fiscal Year Research-status Report
流通・商業理論の再構築ー第一次産業における産直ECの可能性
Project/Area Number |
21K01772
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Research Institution | Osaka University of Commerce |
Principal Investigator |
加藤 司 大阪商業大学, 総合経営学部, 教授 (50161104)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
二宮 麻里 大阪市立大学, 大学院経営学研究科, 准教授 (40320270)
濱 満久 名古屋学院大学, 商学部, 教授 (10440653)
白 貞壬 流通科学大学, 商学部, 教授 (60400074)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 有機農産物 / 流通システム / 商業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、SNSやインターネットを通じた生産者と消費者との直接取引の実態を分析し、 流通・商業理論を再構築することにある。研究対象は、第一次産業、特に地方の中小零細企業であり、品種や業種を横断して分析を行い、質的調査による解釈的ケーススタディを採用する計画とした。 補助期間の初年度に当たる2021年度は、メンバーによる月一回の定例研究会を通じて、関連文献の収集、分析、理論的問題の抽出という作業を行った。その結果、第一次産品の中でも、EC産直でも取扱いの多い生鮮野菜に対象に絞り、(1)伝統的流通システムである卸売市場と産直ECなど多様なチャネルの比較分析を行った。(2)研究対象を明確化する中で、第一次産品である生鮮野菜の中でも有機農産物に対象を絞り、有機農産物が歴史的に伝統的な卸売市場システムを経由しない生産者と消費者の直接的取引(産直ECを含む)が一般的であったことを確認した。近年はECでの取扱いが増える一方で、国が「みどりの食料システム戦略」において有機農業の取組みを拡大する方針を打ち出しているものの、有機農産物の市場規模は欧米に比べて低い水準に止まっている。(3)どのような要因がこれを阻んでいるか? この問題の分析をさしあたりの課題とした。有機農産物は、有機であることの「内容証明」、つまり偽物との区別が困難であることから、市場の失敗が起こり、この問題を解決する手段として「有機JAS」制度が導入されたという経緯がある。しかし、この制度は小規模生産者の費用負担を強いるため、意図せざる結果として積極的な取り組みを阻害したという「政策的失敗」を引き起こすことになった。本研究では、市場取引を補完する仕組みとして、生産者と消費者ならびに小売業を含む信頼を基盤としたコミュニティの形成が必要になる、という中間的結論に達した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、月に一度の研究会を実施しながら、有機農業の最先端事例についての情報を収集し、東海地域でインタビュー調査を実施した。 本年度は、基礎調査として、研究対象を明確化する。国内外の文献資料を収集し、一次産業における産直ECについて、対象業種や地域を限定せず、新たな用途開発・商品開発がどのようにおこなわれているか、その実態を洗い出す。同様に、既存のEC直販サービスについても整理する。 次に、既存の「市場的流通・商業」と新たな流通・商業の相違点を分析する。パイロット調査として重要事例を選定し、半構造化インタビューを実施する計画であったが、概ね計画通りに進捗している。 具体的には、(1)関連文献の収集、分析、理論的問題の抽出という作業を行った(その成果は、加藤による学会報告ならびに濱の論文)。(2)第一次産品の中でも、EC産直でも取扱いの多い生鮮野菜に対象を絞り、伝統的流通システムである卸売市場と産直ECなど多様なチャネルの比較分析を行った。(3)パイロット調査として岐阜県白川町の有機農産物の生産者グループである「ゆうきハートネット」と納入先の有機スーパーの旬楽膳を選定し、半構造化インタビューを実施しながら、取引関係ならびに取引の基盤となる信頼関係=コミュニティの重要性とその形成メカニズムについて分析した(その成果は、二宮による学会報告、ならびに濱・白による「有機農産物市場を形成する価値共創の取組み-NPO法人「ゆうきハートネット」と有機専門スーパー「旬楽膳」の取引関係を事例として-」第72回日本商業学会全国大会、2022年5月28・29日発表予定)。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方向としては、(1)引き続き、関連する国内外の文献資料を収集し、対象に対する分析アプローチを検討する。その際、問題意識を共有しうる他の研究者との交流を積極的に行う。(2)伝統的卸売市場を経由しない産直ECを含む多様な取引形態に調査対象を広げ、事例調査を継続する。(3)有機農産物の市場成長を阻む要因として、有機農産物という新しい価値が消費者に受容されるプロセスに着目するとともに、マーケティング研究における価値共創という概念を援用しながら、生産者・小売業と消費者との間でどのように「価値共創」が行われるか、また「内容証明」が困難な有機農産物の取引では市場の失敗が起こるために市場取引を補完するために信頼関係を基盤としたコミュニティの形成が必要になると考えるが、そのメカニズムの解明を当面の課題としたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で研究会が対面で実施できなかったため計画額と使用額との差額が生じたが、次年度はこの分を調査研究ならびに研究会の交通費、講師謝金などに充当する予定である。
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Research Products
(3 results)