2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K01781
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
野間 幹晴 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (80347286)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 社外取締役 / 企業価値 / 退職給付に係る負債 / 財務政策 / ESGスコア / 実体的利益調整 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度には、次の3つの研究を実施した。 第1に、社外取締役を導入した企業と未導入企業とを比較し、社外取締役の導入によって企業価値や企業業績、株主還元などにどのような影響が生じるかについて実証分析を行った。実証分析から、社外取締役の導入には企業価値向上や利益率の上昇、株主還元の積極化など一定の効果があることが確認された。これまでの先行研究では社外取締役の導入の効果については検証されてこなかったことを踏まえると、本研究の貢献は導入の効果に光を当てた点にあるといえる。。 第2に、内部負債と財務政策の関連について実証分析を行った。具体的には、退職給付に係る負債が運転資本と負債比率に対して与える影響について操作変数を用いた2段階最小二乗法によって検証した。実証分析から、退職給付に係る負債が大きい企業ほど、運転資本が大きく、負債比率が低いことが明らかになった。このことは、経営者は、企業年金が長期債券であるということを考慮し、従業員の受益権を保護することを目的として、退職給付に係る負債が大きいほど、リスクの低い保守的な財務政策を採用していることを示唆する。 第3に、ESG評価と実体的利益調整の関係性を分析した。その結果、ESG評価、具体的には総合スコア、社会スコア、ガバナンススコアが高い企業ほど、赤字回避を目標として実体的利益調整を行う可能性が高いことが示された。一方で、前期利益達成または期初の経営者予想利益達成のための実体的利益調整においては、ESG評価の高低の影響は見られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は新型コロナの影響により、不要不急の要件で学内に入ることができなかったため、データ収集やデータ整備を十分に行うことができていなかった。これと同じ理由により、データ収集やデータ整備を行うことができなかったため。このため、当初の予定と比較すると、やや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は新型コロナも2021年度よりも落ち着きつつあるため、2021年度には困難であったデータ収集やデータ整備等についても、進められると考えている。 2022年度については、ライフサイクルと企業価値の関係について、次のような3つの研究を行うことを計画している。 第1に、既存研究のレビューである。既存研究については、まずライフサイクルに関する先行研究を核にする。次に、労働市場の流動性や技術の流動性、脱成熟などに関する先行研究をレビューし、本研究で構築する仮説の独自性を高めることを計画している。さらに、これらの既存研究では日米の差異を明らかにする。 第2に、先行研究にならって会計情報から企業のライフサイクルを定義することを試みる。先行研究では、連結財務諸表の連結キャッシュフロー計算書を活用して定義しているが、日本の会計基準で連結キャッシュフロー計算書が開示されるようになったのは2000年以降である。このため、2000年以前については、個別財務諸表の損益計算書と貸借対照表を利用して、企業のライフサイクルを決定する必要がある。この点が本研究のオリジナリティであると同時に、挑戦的な側面である。 第3に、ライフサイクルと投資行動や株主還元などの関連性を検証すると同時に、労働市場や技術の流動性との関連を検証する。労働市場や技術の流動性を考慮して分析する際には、日本とアメリカの比較を行うことで、これらの流動性が日本企業の企業行動に与える影響を浮き彫りにすることを試みる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が発生した主な理由は、次の2つである。1つは、旅費として600千円を計上していたが、ほぼ全ての学会がオンラインで開催されたことにある。いま1つは、データ整備等のために人件費・謝金を予算として計上していたものの、コロナの影響で研究室内での業務を依頼できなかったことである。いずれもコロナの影響によるものであり、不可抗力と言える。 2022年度については、コロナも落ち着きつつあるため、特にデータ整備等については当初、2022年度に想定していた以上に予算を執行する計画である。
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