2021 Fiscal Year Research-status Report
Empirical study on the usefulness of financial statement footnotes
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21K01782
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
音川 和久 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (90295733)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 注記事項 / 投資意思決定有用性 / 証券市場 |
Outline of Annual Research Achievements |
国連における「持続可能な開発目標(SDGs)」の採択や米国主要企業における株主第一主義の見直しなど、近年、企業の社会性に大きな注目が集まっている。諸活動を通じて新たに生み出される付加価値は、企業の社会性を評価する重要な指標の1つである。付加価値を正しく算定するには、株主に帰属する付加価値である当期純利益のほか、従業員に対して分配された付加価値を表す人件費の金額を入手しなければならない。また、企業の社会性を評価するときに、役員と従業員の報酬格差に着目することがある。この報酬格差を正確に計測するには、役員報酬に加えて、従業員に支払われた人件費の金額が不可欠である。しかし、日本国内の会計基準を採用している企業が人件費の金額を損益計算書本体または注記事項として開示するケースはほぼ皆無であり、当該情報を必要とする場合には、有価証券報告書の従業員の状況で開示される従業員数と平均年間給与を用いて概算するなど、間接的な方法に頼らざるを得ないが、当該情報には複数の問題がある。一方、2010年3月期から日本企業の任意適用が認められた国際会計基準(IFRS)では、損益計算書本体または注記事項の1つとして人件費の金額を開示することが要求される。そこで、IFRSを適用している日本企業212社の2020年1月から12月までの間に終了した会計年度の有価証券報告書を入手し、人件費の開示状況を調査したところ、人件費を損益計算書の本体で開示しているのは4社のみであり、残りの企業は注記事項として人件費を開示していた。さらに、損益計算書の本体または注記事項として開示される人件費の金額と、有価証券報告書の従業員の状況の開示情報を用いて推定した人件費の金額を比較したところ、両者は大きく乖離しており、その乖離の程度は企業間で一様でないことなどから、IFRSに準拠して開示される人件費情報の意義を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1番目に、IFRSを適用している日本企業の有価証券報告書における人件費の開示状況を調査した結果については、雑誌「会計」において研究論文として公表することができた。この論文は、企業の社会性を評価するときに重要となる人件費の観点から、IFRSに基づく注記情報の有用性の一端を明らかにしたものである。しかし、この調査結果は、2020年という単一年度のデータに基づく分析結果であり、その他の年度のデータも追加して分析を拡張する余地が残されている。そこで、研究室に所属する学生の協力を得て、過年度の有価証券報告書を入手し、人件費のデータベースを充実させることを試みた。2番目に、2012年5月の「退職給付会計基準」の改正に伴って新しく開示されるようになった年金資産の主な内訳と年金資産調整表に関する注記事項を取り上げて、年金資産の主な内訳と期待運用収益または実際運用収益(=期待運用収益±数理計算上の差異の当期発生額)の関連性を実証的に調査することにも着手した。年金資産を株式・債券・一般勘定・その他で運用する割合の多寡と期待運用収益または実際運用収益の関係について、暫定的な分析結果を得ることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
1番目に、IFRSを適用している日本企業の有価証券報告書において主に注記事項として開示される人件費の分析については、拡大したデータベースを用いて、IFRSと日本基準に基づく人件費の乖離度が大きく異なる企業の特徴を分析したり、またIFRSと日本基準に基づく人件費の乖離度が同一企業において時系列で安定しているのか、それとも年度によって大きく変化するのかを調査したりすることにより、追加の知見を得ることにしたい。2番目に、年金資産の主な内訳と年金資産調整表に関する注記事項の分析については、米国企業のデータを用いた先行研究の分析とは異なる結果が得られたことについての解釈を補強したり、分析結果の頑健性を確認したりするなどの作業が残されているので、それらの作業を行った上で、研究論文をまとめることにしたい。3番目に、1998年10月に公表された「税効果会計基準」に基づき開示されている税率差異の注記事項などの分析については、実質的には同じ項目であっても、各企業で異なる名称(ラベル)が使用されているので、それらを集約する作業を丁寧に進めた上で、将来業績や株価との関連性などを分析することにしたい。
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Causes of Carryover |
収集した研究資料を整理するための消耗品類を次年度の助成金も一部活用して購入することにしたからである。次年度は、この消耗品類のほか、証券市場の分析に必要な日経ティック個別株式データと大容量外付けハードディスクドライブの購入、研究資料の収集・整理に従事する学生の雇用などの経費として使用し、研究を進めることにしたい。
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Research Products
(1 results)