2021 Fiscal Year Research-status Report
How strengthening tax governance in Japan can make companies more attractive to investors in terms of Corporate Social Responsibility
Project/Area Number |
21K01796
|
Research Institution | Takushoku University |
Principal Investigator |
稲葉 知恵子 拓殖大学, 商学部, 准教授 (10440140)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 税務コーポレートガバナンス / 情報開示 / CSR(企業の社会的責任) / 税務戦略 / タックスポリシー(税務方針) / BEPS / 租税回避 / 税務会計 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、CSRの観点から企業はいかに税務コーポレートガバナンスに組み込み、その情報開示を行うか明らかにすることを目的としている。 令和3年度は、Fair Tax Markが公表している"TAX STRATEGY REPORTING AMONG THE FTSE 50"の50社を中心に、イギリスの企業の税務コーポレートガバナンスの取組状況とその開示について調査した。また、イギリスで企業活動を行う日系企業の税務担当者およびCFOにインタビュー調査を実施した。日本における税務コーポレートガバナンスの取組状況は2022年1月31日時点でTOPIX Core30を構成する30社を中心に調査を開始した。今後調査対象と調査期間を広げる予定である。 イギリスは、2016年9月に英国歳入税関庁が2016年財政法附則19条を公表し、この規定により企業等に税務戦略の開示を義務付けた。税務リスクの管理方法、自社の税務リスク、タックスプランニングに対する考え方、およびHMRCとの協力という4分野から税務戦略の開示を行っている。FTSE50社は法律で要請される内容を超えて充実した情報を開示している。 一方、わが国では一部の企業がCSR報告書や統合報告書等において自主的に税務情報の開示を行っている。税務コーポレートガバナンスの開示の転換点となったのは、Global Reporting Initiative(GRI)が公表するGRIスタンダードにおいて2019年12月に税の透明性に関する事項が追加されたことである。自発的に税務情報を開示するわが国の企業の多くはGRIの基準に準拠している。正当性を動機として税務情報の開示を行っている企業は定型文による義務的な開示を行っているが、レピュテーションを動機として税務情報の開示を行っている企業は国と地域別の納付税額を含む積極的な開示に取り組んでいる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1年度(2021年度)は、研究計画調書に記載した研究計画に基づき、イギリスにおける税務コーポレートガバナンスの取組とその開示内容の調査およびインタビューによる事例分析を進めた。Zoomによる会議が一般的となったことがインタビュー調査を進める上での助けとなっている。情報収集については、在外研究により得たネットワークを活用し研究を進めることができた。 CSRの観点から税務情報の開示について研究した先行研究(Middleton, Alexandra, and Jenni Muttonen., 2020. Multinational Enterprises and Transparent Tax Reporting. Routledge.)により、諸外国の状況について理解が進んだため、我が国の特徴が明確になった。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終的な目的は税務コーポレートガバナンスの内容とその情報開示の特性を明らかにすることである。 研究計画調書に基づき、第2年度(2022年度)は日本の制度研究および事例分析に取り組み、イギリスの税務コーポレートガバナンスの開示状況と比較研究を行う。分析手法としては、Middleton and Muttonen(2020)の分析に準拠して税の透明性を、法人税の納付税額、税務戦略、地理的な広がり、法人税以外の税金、その他という5つの項目から考察する。 第1年度に実施したTOPIX Core30を対象とする予備調査では、「国と地域別の納付税額」を示している企業は30社中5社であった。ガバナンスの一環として税務情報を開示している企業は法令遵守、透明性の確保、税務当局との関係性に加え、税務ガバナンスの体制、税務プランニングに対する姿勢、税務リスクについても開示している。日本企業が税務情報の開示に取り組む動機は、ESG投資市場からのESG経営への要請、GRIスタンダードにおいて税の透明性がサステナビリティの要素として取り上げられたことへ対応するための自発的な動機と、国税庁の「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組」に対応するための租税実務主導の動機がある。EU諸国で税務情報の開示が義務化されると、税の透明性という観点において相対的に日本企業のESG評価が下がってしまうため、自発的に税務情報の開示に取り組む企業は今後増えると考えられる。 調査対象なる企業と期間を拡大して日本企業の取組と開示について傾向をまとめるとともに、積極的に税務コーポレートガバナンスの開示に取り組んでいる企業にインタビューを行い、その取組を理論化することを目指す。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で、インタビューはZoomで行われ移動に伴う旅費交通費等が発生しませんでした。
|
Research Products
(1 results)