2023 Fiscal Year Annual Research Report
利益の質が配当政策及び投資政策に与える影響に関する実証研究
Project/Area Number |
21K01804
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
市原 啓善 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (60732443)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 利益の質 / 報告利益管理 / 利益調整 / 配当 / 設備投資 / 研究開発投資 / 実証分析 / 財務会計研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、利益の質が、配当政策と投資政策の関係に及ぼす影響をエージェンシー問題の緩和という観点から日本企業を対象に実証分析を行うものである。本研究ではまず、配当政策の局面を細分化し、株主還元における減配時に焦点をあて、会計発生高、販売活動、生産活動、裁量的費用を用いた利益減少型の報告利益管理が、減配発表年度を含む前後数年間に及んで行われていることを明らかにした。本分析は、報告利益管理のおよそ四割を占めるともいわれている一方で、研究の蓄積の少ない利益減少型の報告利益管理の動機に関する実証的証拠の一つを提示するものともなる。 本研究では次に、利益の質が企業の配当政策に及ぼす影響について検証を行った。分析の結果、利益の質が高くガバナンスの強化された企業では、企業の余剰資金を還元させるための高配当が誘導されること、また、情報の非対称性が緩和され、負債コストや資本コストが低減される結果、より高い配当の実施が可能になることを通じて、報告利益の質と配当変化額に正の関係があることが明らかとなった。 本研究では次に、利益の質が、企業の配当と投資政策(設備投資、研究開発投資)との関係に及ぼす影響について実証分析を行った。分析の結果、利益の質が高い場合、配当と設備投資等の正の関係は抑制されることが明らかとなった。高配当企業では設備投資等が多く支出される傾向があるものの、高配当企業のうち、利益の質が高い企業では、高品質な利益情報が、情報の非対称性に伴うモラルハザードの問題や逆選択の問題を緩和し、設備投資等を減少させる役割を持つことが明らかとなった。配当情報と利益の質の評価は、企業の将来の投資政策を評価する際にも有用性が高い可能性がある。報告利益の質が投資政策に及ぼす影響について日本企業を対象とした実証研究は特に不足している状況にあり、今後、両者の因果関係を明らかにする研究に発展させる必要がある。
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