2021 Fiscal Year Research-status Report
デジタル社会に求められる職業会計士の役割・能力と今後の会計教育のあり方
Project/Area Number |
21K01816
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
加納 慶太 県立広島大学, 地域創生学部, 講師 (40796067)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内藤 周子 弘前大学, 人文社会科学部, 准教授 (10610181)
菅原 智 関西学院大学, 商学部, 教授 (40331839)
吉良 友人 岡山商科大学, 経営学部, 准教授 (70779967)
児島 幸治 関西学院大学, 国際学部, 教授 (80388727)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | クラウド会計 / クラウド・コンピューティング / 会計教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「デジタル社会に求められる職業会計士の役割・能力と今後の会計教育のあり方」という題名のもと、①先端デジタル技術の影響による環境変化に対して、職業会計士に求められる役割・業務がどのように変化しているかを明らかとすること、また、②その新しい役割や業務を遂行するための能力・スキルがいかなるものであり、どうすればそれらを習得することができるか、という会計教育上の問題について検討を行うことを目的としている。 2021年度は、職業会計士、企業経営者および財務責任者へのインタビューを中心として研究データを蓄積した。具体的に、職業会計士4名、企業経営者6名、財務責任者2名の計12名に対して、クラウド会計に対する意識や採用決定に影響を及ぼす要因についてのインタビューを行った。インタビューで得られた質的データを分析し、クラウド会計の採用に関する中小企業経営者の意識調査と採用決定に影響を及ぼす要因の分析を行った。研究の結果、中小企業経営者がクラウド会計の採用を決定する際に重視している要因として、クラウド会計の機能が自分の会社のニーズに適合するか否かという点に大きく依拠していることが明らかとなった。 Strauss et al.(2015)では、職業会計士を対象にクラウド会計導入に対する研究が実施されているが、企業経営者側の見解をデータとして利用している研究は未だ存在しない。これまでのインタビュー調査によって、先行研究での知見に加え、企業経営者の視点を追加・拡張しながら本研究を進めることができており、職業会計士に対する社会的要請がより明確となったといえる。 今後は、先端デジタル技術を活用した会計教育プログラムの計画・実施を見据え、先端デジタル技術の影響要因の分析を続け、会計教育プログラムの効果測定を行うアクション・リサーチ実施のための準備を行いたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先端デジタル技術の導入が会計実務に与える影響要因の分析は、インタビューや先行研究などを用いた演繹的研究のステージ1と、質問票による量的データを統計的手法で分析するステージ2に分けて研究を実施する。ステージ1で明らかとした理論モデルをステージ2の量的データで帰納的に実証する混合アプローチによって結果を導くことを試みるが、2021年度はステージ1の実施を中心として行った。 現在までの進捗状況として、職業会計士、企業経営者および財務責任者を含む10社12名のインタビューを行い、その内容について分析を行った。方法としては1社についてインタビュー内容を深く掘り下げる方法と、それぞれの企業・職業会計士について横断的に比較検討を行い、クラウド会計に対する対応や採否について分析を行っている。このインタビュー内容の分析は、先行研究のレビューと共に研究成果として2022年度中に報告・刊行予定である。 また、インタビューで抽出された要因をもとに、菅原、加納によって中小企業家同友会(https://www.hyogo.doyu.jp/)に所属する企業への意識調査とクラウド採用に影響を及ぼす要因分析を行い、その研究成果を共同研究として「日本の中小企業におけるクラウド会計導入に関する意識調査」として中小企業会計学会で報告した。また、クラウド会計を使った会計教育について、高校での観察とインタビューを行いその実態を明らかにし知見にまとめることを目的とした調査研究については、日本会計研究学会において「クラウド会計を利用した会計教育の考察-高校での参与観察を通して-」として共同研究の研究成果として報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究グループにおけるこれまでのインタビュー調査を通して、企業経営者や職業会計士におけるクラウド会計の導入に関する事例には、多くの示唆が存在していることが分かった。2022年3月の研究会において、研究グループとしてグループ外の研究者に協力を依頼し、インタビュー調査を拡張させ、当該内容についてケースブックとしてまとめることが決まった。すでに他の研究者の賛同を得ており、インタビュイについても了承を得ることができた。先行する形で、加納と菅原によってクラウド会計の特徴的な事例についての論文がまとめられており、2023年度中までに調査した事例をまとめることが検討されている。こうしたグループ外の研究者との協働によるインタビュー量の増加は、研究内容である先端デジタル技術の影響要因の分析およびその結果をさらに強固なものにするものであると考えられる。 今後は、インタビューによって得られたデータからモデルを構築し、当該モデルから帰納的にどの要因がどれだけ先端デジタル技術の会計実務への取り組みに影響を及ぼしているかを統計手法で実証する予定である。これは質問票を使い、量的データを統計的手法で分析する。また、その際には、2021年度に行った予備的調査を精査し、より精度の高い質問票調査を行うことを予定している。 さらに、職業会計士及び経営者が会計に応用される先端デジタル技術利用の決定要因に関する研究として、技術受容モデル(TAM)による調査を進める。これは職業会計士及び経営者を対象として質問票調査により研究データを収集する。質問票について、TAMを用いた先行研究のレビューをすでに行っており、先行研究でも頻繁に利用されている信頼性あるTAMの質問票を入手している。必要な先行研究のレビュー及び関連理論の整理は加納が担当する。
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Causes of Carryover |
2021年度はコロナウィルスの影響で、出張によるインタビュー調査等の一部がオンラインによる開催へ変更されており、当初計画されていた旅費(現地までの交通費と宿泊費)の一部分において、研究費が未執行となり次年度の使用額が生じた。また、特に国公立大学における活動基準では、国や地方自治体における強い規制の影響を受ける形で、他都道府県への往来や県域を超える移動について慎重な判断が求められたため、出張を伴う研究活動を十分に行うことができなかった。 2022度の使用計画としては、オンラインによって実施した、クラウド会計に対する意識や採用決定に影響を及ぼす要因についてのインタビューを、対面によって再度行うことにより、オンラインによるインタビュー調査では十分に聞き出せなかった内容や、前回のインタビュー内容を踏まえた新たな質問項目によって、精緻な質的データを収集する予定である。また、これまでのインタビュー調査からクラウド会計の事例研究には多くの示唆が存在していることが認識され、研究グループとグループ外の研究者によって、インタビューの内容を拡張させケースブックとしてまとめることが決まっている。こうした研究活動においても現地に出向き有用な質的データの収集を行いたいと考えている。
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