2021 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本の「悪書追放運動」をめぐる比較メディア史的研究
Project/Area Number |
21K01851
|
Research Institution | Momoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
大尾 侑子 桃山学院大学, 社会学部, 准教授 (50816569)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 歴史社会学 / メディア史 / 白ポスト / 悪書追放運動 / 有害図書 / 有害環境浄化 |
Outline of Annual Research Achievements |
今日、メディア技術の著しい進展にともない技術導入の是非や、その「有害」性に警鐘を鳴らす論調が目立つ。全国各地では今なお戦後から続く「有害図書類」を巡る規制や回収運動が行われており、その実態把握と「有害」メディアを可視化する研究が求められる。そこで本研究は、戦後の「悪書追放運動」がいかに姿を変えながら継続されてきたのかを比較メディア史的に分析し、通史的体系化を行うことで、1945年から現在に至るメディア文化の「有害」性にかんする社会認識や人々の活動の変遷を解明することを目的とする。具体的には、戦後日本の“「悪書追放運動」を広義に捉え、同運動が戦後の国際的コンテクストとの影響関係のもといかにして遂行され、また現今の「有害環境浄化活動」(白ポスト運動)へと結びついてきたのか”を、研究の核心をなす学術的「問い」に設定した。
2021年には各地の「有害環境浄化運動」がどのように実施され、「有害図書類」がいかに取り扱われているのかを、各都道府県の教育委員会の協力のもと、「白ポスト」の設置場所調査(撮影、マップ化)、白ポスト運用実態にかんするフィールドワークを通じて明らかにすることを試みた。 当該年度には、東京都狛江市、三鷹市、福岡県(飯塚市ほか)での白ポスト調査を実施し、現地での設置状況の確認、運用状況について聞き取り調査などを実施した。成果物については、白ポストの歴史的変遷について論じた論文「「白ポスト」はいかに“使われた”か? 1960-70 年代の悪書追放運動におけるモノの位相」を日本マス・コミュニケーション研究(100号)に投稿し、2022年2月に査読論文として公開された。現在、白ポストについては局所的言及以外に学術的論考はなく、設置場所についてもリスト化がなされていない。そのため本研究が遂行されることは学術研究上、重要な意義を持つと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの感染状況により、遠方へのフィールド調査が難航した。また対面でのインタビュー調査を依頼した際にも、感染症対策の観点から許諾を得られない場合が多く、当初予定していた以上にフィールドワークの実施が困難な状況にある。そのため計画段階よりも進捗が遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
申請者はこれまで一貫して戦前昭和の発禁本や軟派出版にかんする検閲研究や社会集団研究を、歴史資料を対象にした言説分析によっておこなってきた。その成果を生かし、第一に、戦後の悪書追放運動との比較検討を行う。資料は新聞、雑誌、PTAや「母の会」の手記等、「悪書」扱いを受けた性科学・性風俗雑誌を対象とするが、とくに「母親」の表象に注目する。第二に、フィールドワークによる「白ポスト」運動の地域間比較と歴史研究を進める予定である。昨年度は1970年代までの状況について論じたため、今後は1980年代以降の整理を行うとともに、関連する雑誌専用自販機などの動向についても調査を実施する。このほか悪書追放運動の推進母体である母の会にかんする学術論文を執筆し、社会学系ジャーナルに投稿することを予定している。 それを踏まえて2024年冬から2025年春に単著として出版し、戦後の「有害」メディアを巡るメディア史的な基礎研究の成果を広く公表することを目指す。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大にともない当初予定していた実地調査がキャンセルとなったため。
|