2021 Fiscal Year Research-status Report
ベーシック・サービスとしての居住支援に関する社会学的基礎研究
Project/Area Number |
21K01856
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
祐成 保志 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (50382461)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 居住支援 / 居住保障政策 / ベーシックサービス / ベーシックアセット / 普遍主義 / コモンズ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「居住支援」にかかわる諸実践の特質を、理論的な検討と経験的な調査を通じて明らかにすることである。居住支援は、2000年代半ばに住宅政策に導入された概念であるが、福祉政策にも浸透しつつある。住宅政策の居住保障政策への転換において、サービスが一つの焦点となりつつあるものの、日本では研究蓄積が乏しい。そこで本研究では、2010年代半ばに英国で提唱された「ユニバーサル・ベーシックサービス」(UBS)という政策構想に着目した。支払い能力に関係なく、誰もが必要とする基礎的・基幹的なサービスを受ける権利を保障するというのが、UBSの理念である。UBSは居住保障を重視しているが、資源の分布のパターンが医療や教育と大きく異なるため、その手段は選別的とならざるを得ない。この普遍主義と居住保障の矛盾を打開するための手がかりを与えると思われるのが、UBSと前後して北欧および米国で提起された「ユニバーサル・ベーシックアセット(UBA)」の考え方である。UBAの特徴は、UBSが重視する公的な資源に加えて、コモンズというアセットに着目する点である。もっとも、UBSとUBAには重要な共通点が存在する。それは、受益者であるとともに、貢献者としての市民が想定されていることである。このことは、私たちがふだん意識することのないサービスという言葉の含意とかかわる。サービスは、たんに市場で売買される商品にとどまるものではなく、「社会」そのものを再生産する営みである。このとき、コモンズとしてのアセットは、UBSとUBAのつなぎ目に位置している。UBSとUBAがともに居住保障を重視するのは、居住がサービスの二重性が顕著にあらわれる領域であり、社会の再生産の可否がするどく試される現場であるからに他ならない。この意味で、居住支援とは、社会が社会であり続けるための条件をととのえる仕事なのである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の課題の一つは、住宅政策を捉える新たな枠組みを構築することであった。ユニバーサル・ベーシックサービス(UBS)とユニバーサル・ベーシックアセット(UBA)の構想を比較することを通じて、居住保障におけるサービスの位置づけについての基礎的な考察を進めることができた。また、その一部をいくつかの論稿で発表する機会を得た。このため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度に進めた理論的な検討を踏まえて、2022年度以降は国際比較の観点にもとづく経験的な調査に重点を置く。英国では、不動産管理とソーシャルワークという専門性を兼ね備えた「ハウジングマネジメント」と呼ばれる職業が形成された。その過程で、住宅の供給と管理における対人社会サービスの側面が自覚的に対象化され、研究蓄積も豊富である。これらを参照枠として、日本の基礎自治体における居住支援の実装に関する調査を実施する。
|