2022 Fiscal Year Research-status Report
ベーシック・サービスとしての居住支援に関する社会学的基礎研究
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21K01856
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
祐成 保志 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (50382461)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 居住と福祉の緊張関係 / 都市コモンズ / ポスト福祉国家 |
Outline of Annual Research Achievements |
政府の全世代型社会保障構築会議が2022年12月に発表した報告書には、「住まい政策を社会保障の重要な課題として位置づけ、そのために必要となる施策を本格的に展開すべきである」との文言がある。ここに表現されるように、居住支援の概念を媒介として、住宅政策と福祉政策の組み替えが行われつつある。2022年度の研究では、こうした変化を的確にとらえるための理論的な視座の検討を進めた。その際に重視したのは、居住と福祉の関係についての議論の展開である。1970年代には、住民の主体的な参加を重視する居住運動において、政府による直接供給を基軸とする居住保障と、その福祉国家への組み込みに対する批判がなされた。2000年代には、福祉国家の軽量化を、住宅を中心とする私的資産の活用によって補うというモデルが提示された。2010年代には、都市への権利にたいする関心の高まりを背景に、集合的なアセットの所有・管理についての研究が蓄積されている。そこでは、「無力化された個人」とも、「起業家としての個人」とも異なる、都市コモンズの「世話役・管理人」という居住者像が描かれる。これらの議論は、居住のニーズが他のニーズとは異なる性質をもつことに着目する。このことは、居住と福祉の間に存在する根本的な緊張関係を示唆している。そのような関係ゆえに、居住を福祉政策に組み込むことが困難となる一方で、ポスト福祉国家の構想にとって要の位置を占めることになる。以上が、本年度の研究からえられた暫定的な結論である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、2021年度に行ったユニバーサル・ベーシックサービス(UBS)とユニバーサル・ベーシックアセット(UBA)の比較を基礎として、居住保障と福祉国家の関係についての考察を進めることができた。その成果は、2023年5月に雑誌論文として公刊予定である。また、環境社会政策と居住保障の接点となるエネルギー貧困についての論稿を発表した。このため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
理論的な検討を継続するとともに、経験的な調査に重点を置く。前者については、都市コモンズに着目して内外の研究を精査する。後者については、基礎自治体のレベルで住宅と福祉の諸領域を横断して展開される居住支援の実践にかんする聞き取り調査を行う。
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Causes of Carryover |
2022年度は理論面の進展に重点をおいたため、当初予定していた現地調査を実施しなかった。2023年度に現地調査を計画しており、旅費として使用する予定である。
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