2022 Fiscal Year Research-status Report
Sociology of Medically Unexplained Illness: a Case Study of Multiple Chemical Sensitivity
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21K01861
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Research Institution | Takasaki City University of Economics |
Principal Investigator |
宇田 和子 高崎経済大学, 地域政策学部, 准教授 (90733551)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 化学物質過敏症 / 安中公害 / 論争中の病 / 環境病 / 公害病 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、化学物質過敏症をはじめとする「医学では説明のつかない症状」(medically unexplained symptoms)について、社会学的な語彙を用いて説明を試みることである。 当年度は、もう一つの参照事例として、安中公害における医学的に説明のつかない病について検討した。安中公害とは、群馬県安中市(旧安中町)において東邦亜鉛株式会社安中製錬所が起こした環境汚染と農業被害を指す。1986年に東京高裁において被害農民と東邦亜鉛は和解し、公害防止協定が結ばれ、発生源対策が取られるようになった。しかし、それまでには、亜硫酸ガスやカドミウムなどの有害物質による大気・土壌・水の汚染とともに、農民の間で多様な症状が経験された。すなわち、手足のしびれ、腰痛、眼やのどの痛み、視力の低下、手の変形、指の第一関節の変形(いわゆる指曲がり症)などである。こうした症状が集合的に発生していながら、明確な公害の被害とは見なされなかった。 公害は加害と被害の関係が相対的に明確であるが、化学物質過敏症のような環境病は、因果関係が特定しにくい。このように二つは異なる種類の問題として捉えられてきたが、安中公害(公害)と化学物質過敏症(環境病)は、その患いが疾病と認識されにくいという点で共通している。 そこで、安中公害において人体被害が認識されなかった理由を、聞き取り調査を行い検討した。その結果、農民の症状はイタイイタイ病が社会問題化したからこそ、それに続いて問題化されたが、同時に、イタイイタイ病との関連において理解されるからこそ、その発症までには至らない「前期症状」と認識されてきたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
安中公害における人体被害に着目することで、公害においても環境病と同様に病をめぐる論争が起きていることを確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
安中公害訴訟の準備書面や本人尋問の記録には、人体被害の語りが含まれている。その記録を一つずつ検討する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、聞き取り調査の協力者が近隣に居住しており、旅費がかからなかったことである。翌年度分は遠方の協力者にも調査を行い、旅費を使用する。
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