2021 Fiscal Year Research-status Report
「生存権」をめぐる法的言説実践の歴史社会学的研究―セツルメントの法律相談を中心に
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21K01875
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
冨江 直子 茨城大学, 人文社会科学部, 准教授 (20451784)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 生存権 / 歴史社会学 / セツルメント / 方面委員 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、関東大震災の前後の時期に注目する。最も中心的な分析対象とするのは、震災後の東京で開設された東京帝国大学セツルメント(以下、東大セツルメントとする)の法律相談であり、研究の目的は、多様な人びとの語りの相互作用のなかで複数の「生存権」論がせめぎあい、創発する様を動態的に描き出すことである。しかし、令和3年度は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、東大セツルメントの資料の収集を十分に進めることができなかったため、当初の研究計画において想定していた順序を変更し、コロナ禍においても利用できる資料に恵まれていた大阪府方面委員の活動の分析を進めた。令和3年度は、昭和初期における大阪府方面委員の活動に関する資料を分析し、地域社会における方面委員の活動の正当性を支えるための政治的な実践のあり方を考察した。 方面委員の理念においては、権利に基づく救済よりも人格的な交流・感化による救済が重視されていたが、本研究においては、方面委員の理念よりも実践の過程に着目した。分析の結果、大阪府方面委員の活動の現場においては、救済への権利という発想が常に否定されていたわけではなく、地域社会のなかで方面活動の正当性を支えるためにそれが効果的である場合には、むしろ方面委員によって貧困者の救済への権利が明確に主張され、擁護されていたことがわかった。令和3年度の研究の内容は、令和4年度中に論文集のなかの一つの章として刊行される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昭和初期の大阪府方面委員の活動についての論文執筆を行うことができたが、新型コロナウイルスの影響で東大セツルメントに関する資料収集を進めることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
大阪府方面委員の活動の分析を続けるとともに、東大セツルメントに関する資料の収集・分析を進めていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大のため、学会、研究会等がオンライン開催となったこと、また資料収集のための出張を延期しなければならなかったため、旅費を中心に次年度使用額が生じた。令和4年度に、主に資料収集のための旅費として使用する計画である。
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