2021 Fiscal Year Research-status Report
共感社会におけるニュースキャスターの役割:コメントの言説分析と意識調査から
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21K01884
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
深澤 弘樹 駒澤大学, 文学部, 教授 (70584499)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | テレビジャーナリズム / テレビニュース / ニュースキャスター / 感情労働 / 共感 / 感情 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は①共感社会に関する先行研究のまとめと、②キャスターコメントの事例研究に取り組んだ。前者では、ネット社会において感情化が進むなか、ジャーナリズムにおける「感情」「共感」の位置づけを先行研究から明らかにした。後者では、東京五輪におけるニュースキャスターのコメント分析から、コロナ禍で開かれた東京五輪がいかに語られたのかを探った。以下、簡単にまとめる。 中立や客観性が重視されてきたジャーナリズムにおいて、昨今、人々に寄り添う姿勢や市民と手を携えて課題解決に取り組む新たな報道のあり方が注目されている。そうした傾向について、①では報道を感情労働と結びつけたウォール=ヨルゲンセンの知見を援用して考察した。彼女は、ジャーナリズム組織が「感情の外部化」という戦略的儀礼を用いて報道していることを指摘しており、こうした彼女の考え方を概観した。同時に、感情や共感がもつスポットライト的性格や排他性に目を向け、感情重視の危うさも指摘した。 感情労働の考え方に基づき、キャスターコメントの分析を行ったのが②である。2021年の東京五輪期間中、夜間に放送された主要ニュースを分析し、ニュースキャスターがいかなる感情規則を内面化し、コロナ禍の五輪を語ったのかを明らかにした。その際、この時期の報道を「パラレルワールド」と評した山腰修三の考え方を参考に、テレビ報道において、五輪の世界とコロナの世界がどのように描かれたのかをキャスターのコメントから明らかにした。分析からは、世論を敏感に感じ取ったキャスターが開会前までは国民の不安を代弁し、政府の対応を非難していたものの、開会後はコロナ禍で苦難に見舞われた選手に感情移入して応援する気持ちを前面に出したことで、結果的に五輪関連の報道にコロナ報道が埋没する結果になったと結論づけた。 以上の成果は『駒澤社会学研究』に論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
先述のとおり、令和3年度はジャーナリズムにおいて共感や感情がどうとらえられているのかを先行研究からまとめて、本研究の理論的枠組みの明確化に取り組むのと同時に、テレビニュースのコンテンツを分析して共感重視の姿勢がどのような形でキャスターコメントとして表現され、感情労働的側面が確認できるのかを探った。 こうした研究の方向性は予定どおりであったものの、想定通りに進まなかった部分もある。年度初めの計画では、言説分析の知見を深めたうえで、より多くのデータを収集し、テキストマイニングソフトを用いて分析を行う予定であった。しかしながら、年度前半に行った先行研究のレビューにおいて、社会学における共感、感情の扱いや共感ジャーナリズムのありようをまとめることに時間を費やし、言説分析の知識を深めることや手法の明確化にまで手が及ばないままで年度後半の事例研究へと移ってしまった。また、この事例研究においては、研究計画段階ではコロナ報道におけるキャスターコメント分析を行う計画であったが、コロナ禍が長引いているために分析時期を絞る必要が生じ、手始めに、期間を絞って東京五輪期間を対象に行うことに方針転換せざるを得なかった。以上の2点から「やや遅れている」としたが、後者の分析時期については、データ量からみて分析可能な時期を見極めたうえで当初予定していた目的を達成したいと考えている。 また、Twitterなどソーシャルメディアとマスメディアの報道の共振作用の分析に着手できなかったことも反省材料であり、令和4年度は、言説分析の方法論の理解を深めるとともに、より多くのデータの収集を進め、当初想定していたテキストマイニングソフトを用いる分析に取り組みたい。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度については、令和3年度に行ったキャスターコメント分析の対象、範囲を広げてコロナや五輪に関するキャスターコメントの特徴を探っていく。また、令和5年度のインタビュー調査に向けて放送局やフリーアナウンサーに連絡を取り、インタビューの予備調査を行う。 今後の研究の進め方としては、令和4年度の早い時期にキャスターコメントのデータ収集を済ませたい。令和3年度の分析で収集したキャスターコメントのデータが限られていたため、4年度はリサーチクエスチョンを明確にしたうえで分析時期や範囲を広げてデータ収集を行う。また、テキストマイニングソフトを用いた分析にも取り組みたい。頻出語句や共起ネットワークを分析することで、キャスターコメントの全体的な傾向を分析する。さらに、コメントの類型化等の質的分析を通してキャスターコメントの機能を明らかにする。 このほか、ネット上での書き込み、ネット記事も収集して分析を試み、これら言説の束とキャスターコメントとの共振作用を重点的に調べる予定である。また、次年度のインタビュー調査に向けて、夏以降、実際に放送局に出向いて協力を打診し、次年度の調査の確約を得たい。また、可能であれば対面形式かオンラインの会議ツールを用いて聞き取り調査にも着手し、予備調査を試みたいと考えている。 以上の計画が円滑に進むよう、事前におおまかなスケジュールを設定しておく。そして、数か月に1回、進捗状況をチェックすることを心がけ、大幅な遅れが生じないよう気を配りたい。
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Causes of Carryover |
令和3年度の交付予定額は、物品費が95万円、旅費が30万円であった。物品費についてはブルーレイディスクレコーダーやテキストマイニングソフト、書籍などの資料等を購入し、研究に必要な物品をほぼ計画どおりにそろえることができた。しかしながら、旅費についてはコロナ禍でもあり、協力を要請する放送局に出向くことが不可能な状況で、支出することができなかった。この点が大きく影響して次年度使用額が生じることとなった。 令和4年度もコロナの影響は続くと思われるが、徐々に日常を取り戻しており、その様子を見極めながら放送局に出向きたいと考えている。なお、昨今はオンラインでインタビューが可能であるが、まったく面識がないところでのオンラインインタビューは難しいと考えているため、インタビューそのものはオンラインで実施するとしても極力、放送局に足を運びたいと考えている。 令和4年度の計画において、使用予定額が大きいのは旅費であり、令和3年度に未消化だった分も含めて有効に活用したい。このほか、研究を進めるうえで必要な書籍類やICレコーダー、文字起こし費用などにも支出する予定である。
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Research Products
(2 results)