2023 Fiscal Year Research-status Report
共感社会におけるニュースキャスターの役割:コメントの言説分析と意識調査から
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21K01884
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
深澤 弘樹 駒澤大学, 文学部, 教授 (70584499)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | テレビニュース / テレビジャーナリズム / ニュースキャスター / キャスタートーク / 共感 / 親密性 / 感情労働 / 言説分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は共感重視社会におけるニュースキャスターのあり方に注目し、キャスターコメントの言説分析とキャスターインタビューを通してその存在意義を問うものである。このうち、3年目にあたる令和5年度については、インタビュー調査に着手し、放送局を回って聞き取り調査を行った。放送局6局を訪れ、報道・番組統括者6名、キャスター11名の調査を実施し、報道の現場が考えるキャスターの理想像、ネット社会を迎えるなかでのキャスターの役割について考察した。 調査を通して、報道の現場はニュース内でのキャスターの「語り」は重要であると考えているものの、語れるジャンルや長さには制限があること、ネット社会を迎えて、キャスター自身が発言内容により慎重になる傾向が顕著となった。また、キャスターは視聴者との共感醸成に重きを置き、親しみやすさを志向する姿勢や個人の意見を述べるよりも多様な論点を提示して視聴者の気づきを促す役割を重視していることも分かった。なお、本インタビュー調査については、7月に駒澤大学「人を対象とする研究」に関する倫理委員会に研究計画を提出して承認された。 このほか、キャスターの語りの変化について、「変容するニュースキャスターの『語り』:重視される共感」と題した論文を発表した。『駒澤社会学研究』(第62号)所収の本論文では、1970年代からのキャスターニュースの娯楽化の系譜をたどるとともに、キャスターの役割の変容について、代表的なキャスターが著した書籍に基づいてまとめた。過去の代表的なキャスターの発言からは反権力を内面化していることがうかがえたが、昨今のキャスターが著した書籍では共感重視の姿勢が確認できた。以上の変化を社会の構造的変容とも関連づけながら本論文ではまとめ、キャスターの役割が、反権力を旗印にモノ申す存在から、視聴者を代弁しての共感醸成を重視した調整役に移行していることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
令和5年度は当初、令和4年度に取り組みなかったキャスターコメント分析を行うとともにインタビュー調査を行って最終年度のまとめを行う予定であった。このうち前者では、キャスターコメントのみならず、世論を二分するトピックを設定してソーシャルメディアの書き込みについても分析を行うことも想定していた。加えて、令和3年度に行った東京五輪報道でのニュースキャスターコメント分析をさらに進めるつもりであったが、インタビュー調査に時間を要し、実際は手つかずのままで終わってしまった。一方のインタビュー調査については、本研究でもっとも重視しているキャスターの意識の解明に向けた成果を挙げることができた。しかしながら、すべての調査とまとめを終えることはできず、研究の一年間延長を決めて翌年度に全体のまとめを持ち越した。 このように、令和5年度は放送局ならびにキャスター調査により、ネット社会、SNS社会におけるテレビジャーナリズムやテレビニュースのあり方を考察するうえで貴重なデータを得ることができた。ただし、本データの分析においてはデータの収集が全て終わっておらず最終的な結論づけに向けて時間が必要となる。令和6年度は引き続き調査を行うのと同時に、本研究で依拠するメディア研究の理論との接合を図ることも必要となる。 以上のように、令和5年度はインタビュー調査がメインとなったが、最終的にすべてを終えることができなかったこと、さらには、キャスターコメントの言説分析についても顕著な進展が見られなかったことから1年の延長を申請したため、「遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度については最終年度となるため、令和5年度に取りかかったインタビュー調査を全て終えて、最終的なまとめを行う。以上を行うことによって、共感重視社会におけるテレビニュースの可能性やキャスターのあり方について探る。 具体的なスケジュールとしては、前期のうちに放送局やキャスターにアクセスを試みてアポイントメントを取り、おおよその調査スケジュールを固める。現段階で調査に前向きな局やキャスターを数局、数名確保しているが、あと数局と接触を試みて、最終的には10局程度に協力を仰ぎ、合計30名程度の調査協力者(報道統括者・キャスター)を得たいと考えている。東京近郊であれば授業のない日に調査に赴くほか、遠方であれば8月、9月の夏休みを利用して行い、9月下旬までには全ての調査を終了させる。そのあとにまとめに入るが、その場合はテキストマイニングソフトを用いるなどして、キャスターがいかなる意識を内面化しているのか、ネット社会を迎えて、キャスターの語る行為がいかに変容しているのかをまとめる。また、令和5年度に実施できなかった言説分析も並行して取り組むことも考えている。 以上のように、本研究の最終的な結論づけを行うのが本年度の目的であり、テレビ離れが叫ばれるなかで、キャスターの存在意義とはなにか、テレビジャーナリズムの可能性について、進行する共感社会という社会的変容のなかで位置づけたい。その際、研究代表者がこれまで依拠してきた感情労働の分析枠組みを用いるのはもちろんであるが、昨今は「感情」「感情史」をテーマにした研究が深まりを見せており、そうした最新の動向との接合も図って最終年度の研究を終えたい。計画が円滑に進むよう、事前におおまかなスケジュールを設定し、定期的に進捗状況をチェックすることを心がけ、大幅な遅れが生じないよう気を配りたい。
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Causes of Carryover |
令和5年度の支出については、物品費としてモバイル端末、番組録画用のブルーレイディスクなどのほか、本研究に関係する書籍類を購入した。このほか、特に支出が多かったのは放送局での調査のための旅費である。放送局調査で移動する際の航空チケット、電車賃を支出した。調査協力者に支払った謝金としても支出している。また、インタビューデータの文字起こしを行うためのサービス購入や、インタビューを行うためのICレコーダーにも費やした。 しかしながら、結果的に70万円余りを残すことになり、次年度使用額が生じた。本来、令和5年度で調査を終えて研究を終了する予定であったが、最後まで終えることができず、1年間延長しての調査費用が必要になるため、次年度分を残すことにした。 令和6年度については、今後の推進方策でも記述したとおり、インタビュー調査を終えるために放送局に出向いて調査を行う必要があり、旅費として使用したい。訪問する会社は3~5社、インタビュー対象者は10名前後を予定している。その際のインタビュー謝金も必要となる。このほか、本分野に関する専門書やプリンタートナー等の文具類にも支出する。残額分を有効に活用して最終年度の研究を遂行したい。
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Research Products
(1 results)