2022 Fiscal Year Research-status Report
子育て支援組織における他人の子どもに対する指示と注意の会話分析的研究
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21K01895
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Research Institution | Kobe College |
Principal Investigator |
戸江 哲理 神戸女学院大学, 文学部, 准教授 (10723968)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 子育て支援 / 会話分析 / 家族社会学 / フィールドワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の業績として挙げられるのは、家族社会学の第一人者、落合恵美子の退官記念論集という性質を帯びた、平井晶子・中島満大・中里英樹・森本一彦・落合恵美子編『〈わたし〉から始まる社会学』(有斐閣)に収められた「育児ネットワークと会話分析」である。 落合は育児ネットワークの嚆矢となった研究において、同じ地域に暮らす母親たちが、いわば〈子育て仲間〉としてお互いの子育てを助け合っている様子を、インタビュー調査にもとづいて明らかにしている。そのなかで落合は、母親たちの付き合いにいくつかのルールが存在することを指摘している。たとえば、「お互いの家庭に立ち入りすぎない」といったことや、「自分からサポートを申し出る」といったことである。だが、それらのルールが矛盾する場合もあるはずだ。たとえば、よその子どもが何か悪さをしたときの行動指針としては、先ほどの2つのルールは衝突してしまう。では、そのような場合に〈子育て仲間〉はどのようにふるまうのか。 この問いに対して、子育てひろばの母親たちは、よその子が自分の目の前で何か悪さをしたときに、注意するのかしないのか、するとしてどのように注意するのかを検討することで答えているのが、上記の論考である。結果として、注意はするものの、親の意向を慮ってそれはなされるということ、すなわち、2つのルールが矛盾しないように工夫していることを明らかにしている。逆にいえば、それが〈子育て仲間〉としてふるまうということなのである。 改めて確認しておくと、本研究は、数ある子育て支援のなかでも、親が子どもを連れて集まる場所という子育てひろばの特質に着目するものだった。この特質は、子どもの社会化と子育ての社会化という2つの社会化が同時に起こることを意味しているからである。上記の論考は小品ながらも、落合の育児ネットワーク研究に事寄せて、子育てひろばで両者が交わる様相を捉えたものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究業績として今年度内に公刊に至ったものは、結果としては上記『〈わたし〉から始まる社会学』に収められた論考だけであった。また、昨年度に比べると、状況は大きく変化したと感じるものの、子育てひろばでのフィールドワークを進めるにあたって、新型コロナウイルス感染症の懸念はなお拭いきれないところがあった。子育てひろばでの実査については予定どおりに進められたとはいえない。他方で、収録済みのデータを整理する作業、とりわけ、書き起こしを作成する作業は大幅に進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
フィールドとしている子育てひろばのうち、1ヶ所については、すでに事前予約なしに親子が利用できるようにしたとの情報を得ている。今年度末から新型コロナウイルス感染症をめぐる状況が好転し、子育てひろばでのフィールドワークを進めやすくなっていることは確かだろう。直接、足を運べる時機を窺いたい。他方で、この2年間、フィールドに足を運べなかった分、収集済みのデータを使いやすくする作業は飛躍的に進展した。そこで次年度も、研究を進めるにあたっては、それらを積極的に活用していくことを考えている。また、整理が済んでいないデータはまだまだ多くあるので、それらを研究に活用できる状態にする作業も並行して進めていきたい。
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Causes of Carryover |
昨年度と同じく、旅費の使用について申請時点での予定と実際に違いが生じたことが大きい。今年度もやはり、子育てひろばでのフィールドワークを行うことは難しい状況にあった。同じような状況だった昨年度は、やむをえず、実査を行って集めるはずだったデータを補完すべく、手持ちのデータを研究に使いやすい状態にする作業に予算を振り替えたが、結果としては、それが研究を進めるうえで有効な手段だということが明らかになった。そこで今年度もこれを踏襲した。「次年度使用額」については、この作業を進めるために充当することを主としつつ、必要に応じて実査や研究発表のための旅費としても使っていきたいと考えている。
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