2021 Fiscal Year Research-status Report
「災間社会」における不確実性の内面化にかかわる社会過程の解明
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21K01902
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
黒田 暁 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (60570372)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 「震災から10年」 / 制度の時間 / 生活の時間 / 生活再建の社会過程 / 調査と実践 / 東日本大震災 / “あいだ” / Resilience |
Outline of Annual Research Achievements |
2021(令和3)年3月をもって、東日本大震災から10年が経過し、いわゆる「復興・創生期間」が終わり、原子力災害被災地を除くすべての復興事業が完了された。こうしたターニングポイントでもある研究初年度は、制度の時間的区分によって、人びとの生活・生きられる時間は規定され、暮らしの補助・助成もほとんどが打ち切られた。そのなかで、とくに津波被害を受け、地域内で集団移転した/自力再建で地元に残った人びと、あるいは地域外に転出した人びとが、どのような制度利用や選択を重ねていき、現在は新しい暮らしにどのように適応しているのかに注目した。その過程を10年のタイムスパンで捉え、生活再建や、当事者にとっての「復興」、さらに移転前/後の地域社会の再編過程を描き出す作業のため、これまでの学術調査に加えて震災復興支援活動の経験とそこからの知見を内省的に振り返って論考に取りまとめた。「環境と社会の〈あいだ〉を問うまなざしは、津波被害といかにして相対してきたか―「復興」活動への参与「実践」と、「調査」との往復から―]『環境社会学研究』27:22-37(2021年)がその成果に当たる。また、震災からの回復力(Resilience)にかんするテキスト書籍をまとめる際の副編集長役をつとめ、2022年度内に刊行予定となっている。ここでは、環境社会学の災害・震災にたいする方法論のあり方を問いかけつつ、20年近く続いている現地とのかかわりから「調査(研究)者と活動支援者の“あいだ”にあること」の立場性によって、いま何が産みだされようとしているかを総合的に検証を試みた。調査の実践という意味にとどまらず、震災(災害)にどうやってコミットメントできるのかという視点から、調査実践にとどまらない“あいだ”の理論的示唆について議論を展開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021(令和3)年度は、「震災から10年」「復興・創生期間」という制度的な節目(制度の時間)と、人びとの生活の復興状況とその認識(生活の時間)がどのように関連、あるいは交錯してきたのかについて、総合的に検証することを試みた。本研究は社会調査の方法論に基づいた研究であり、宮城県石巻市を中心とするフィールドワークの実践を計画していたが、初年度である2021年度は、想定内ながら、新型コロナウイルスの間断なき流行が続き、残念ながら現地でのフィールドワークは困難な状況が続いた。あらかじめこのような状況を想定していたので、Web周辺機器を整備したうえで、Web調査やWebを介した研究会の実施などで情報収集に努めた。また、これまでの知見を精査して議論を組み立て直す作業を進め、その点はおおむね順調に進展させることができた。同時に、九州内で災害にたいする地域社会の対応とそこからの復興の取り組みにかんするフィールドワークを実施することで、本研究課題の議論を進めるための一助とするようにするなど、コロナ事態にたいしても臨機応変に対応した。しかしながら、コロナ事態とそれに伴う遠方への出張と対面型での調査にともなう困難や一般的な忌避傾向が、想像以上に社会に定着しており、その点は今後も留意したうえで研究課題に取り組み、計画を適宜修正しながら工夫を重ねていかねばならないと自覚している。以上の経緯から、自己点検による評価としては、(2)おおむね順調に進展している、が、今後の計画についてはコロナ事態をかんがみてさらなる修正・調整を余儀なくされるものと見越している。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度に掛けては、引き続き、集団移転した/自力再建で地元に残った人びと、あるいは地域外に転出した人びとが、震災後10年以降の状況にどのように適応し、定着をはかりつつあるのか追究するとともに、とくに人びとが、津波被災によって中断せざるをえなかった地域の生業の構造をどのように転換させてきたのか、研究対象地の北上町において隣接する地域の農業と漁業の再生過程を比較検証する。石巻市北上町には、北上川河口地域の内陸側にあたる橋浦地区と、海側の十三浜地区がある。稲作を中心とした農業者が多い橋浦地区では、津波被害によって冠水した水田の復旧作業が急ピッチで進められていったが、震災前から潜在的な課題であった農業者の高齢化や担い手不足が露見し、農業機械を失った農業者個別に助成が届かず、離農者が続出するなど、問題が急峻化してきた。震災後は、地元農業者が主体となった農業法人体が相次いで立ち上げられ、法人経営と同時に地域農業の維持も目指そうと、地域雇用や後継者の確保を試み、地域農業の新たな「受け皿」を形成しようとしている。一方、隣接する十三浜地区では、本来は単独経営体だった漁業者が、津波被害に対して株式会社や生産組合といった新たな「協業(組織)化」を始め、復興にかかわる漁業施設の支援と組み合わせた展開を試みるようになった。こうした地域の生業をめぐる新たなまとまりの結成や組織化によって、震災後、人びとが暮らしの不確実性をどのように内面化させてきたのか、苦渋の選択を再帰的に捉えかえす「選択の主体化」によって「等身大の復興」を取り戻そうとしてきた過程を示す。Web調査も活用するなど工夫を凝らしつつも、対面型の調査を実施する機会をねん出するようにしたい。
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Causes of Carryover |
東日本大震災とその被災エリアを主調査対象としていたため、予定していたフィールドワーク(旅費)が実行・使用できなかった。その分、九州内(出張に差し障りのすくない災害地)の補助的フィールドワークを実施し、整備したWeb環境でWeb調査を実施するなどして研究データを確保するようにしたが、予定していた予算使用の額は半分程度にとどまったことによる。2022年度は繰り越し分とあわせて、出張調査の計画を柔軟に練っていくとともに、その実施に際する人件費・謝金の実行をはかり、予算執行につとめる。
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Research Products
(3 results)