2022 Fiscal Year Research-status Report
「災間社会」における不確実性の内面化にかかわる社会過程の解明
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21K01902
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
黒田 暁 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (60570372)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | レジリエンス / 地域の災害対応 / 日常性と非日常性 / 地域社会のレジリエンス / 環境と社会の相互関係 / 津波災害 / 津波被害 / 地域社会の復興 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間の2年目にあたる2022年度は、おもな調査フィールドである東北地方の宮城県石巻市に直接足を運んで調査に通い、東日本大震災を受けての集団移転前/後の地域社会の再編過程と現在進行形(住民の認識・活動傾向)を描き出す作業を積み重ねていくことを計画していた。しかしながら、2020年からのコロナ禍の猛威がとどまるところを知らず、とくに高齢・過疎化が進んでいた地方社会のコミュニティに大きな打撃を与えるとともに、遠方からの訪問者や対面での調査の受け入れがたいへん難しい状況であった。さらに2022年夏ごろには日本各地における感染状況が爆発状態ともなり、計画していた東北調査を断念せざるをえなくなった。このように、おもな調査フィールドでは、リモートでの調査や情報収集に活動が大きく制限されたが、状況に柔軟に適応すべく、これまで九州地方(熊本・奄美大島)で発生した災害とその地域対応のあり方について、とくに日常性-非日常性に着目した実地調査を重ねた。また、これまでの学術調査に加えて震災復興支援活動の経験とそこからの知見を内省的に振り返って論考(書籍)に取りまとめた。具体的には、震災からの地域や人びとに宿る回復力(Resilience)にかんして論じたテキスト書籍をまとめる際の編者をつとめ、2023年3月に上梓した『地域のレジリエンスを高める環境科学』(九州大学出版)が挙げられる。環境と(地域)社会の相互関係の観点から総論ならびに震災事象へのかかわりについての各論(「第10章 災害に向き合う社会環境とは」「第11章 レジリエントな地域社会の構築に向けて」)を執筆担当した。本研究課題の中間まとめとして非常に重要な位置づけとしている。また、『環境社会学事典』(2023年3月:丸善出版)においても津波災害とその被害の諸相にかんする中項目2つを執筆担当した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は社会調査の方法論に基づいた研究であり、宮城県石巻市を中心とするフィールドワークの実践を計画していたが、2022年度も想定以上に新型コロナウイルスの間断なき流行が続き、残念ながら現地でのフィールドワークは困難な状況が続いた。コロナ禍が長引くことで、直接的に現地を訪ねるフィールドワークの実践が遠慮される事態の中、Web周辺機器を整備したうえで、Web調査やWebを介した研究会の実施などで情報収集に努めた。また、これまでの知見を精査して議論を組み立て直す作業を進め、共編著の書籍と事典の中項目2点の執筆にかんして、その点はおおむね順調に進展させることができた。同時に、九州内で災害にたいする地域社会の対応とそこからの復興の取り組みにかんするフィールドワークを実施することで、本研究課題の議論を進めるための一助とするようにするなど、コロナ事態にたいしても臨機応変に対応した。しかしながら、コロナ事態とそれに伴う遠方への出張と対面型での調査にともなう困難や一般的な忌避傾向 が、想像以上に社会に定着しており、2023年度になり新型コロナの類型分類が変更されたとはいえ、地方社会にたいするフィールドワークの実施については引き続き慎重に考え、行動する必要があると認識している。以上の経緯から、自己点検による評価としては、研究活動の進展とその成果の発信という点においては(2)おおむね順調に進展している、が、調査出張を九州内に限定していたこともあり、予算消化は予定よりも遅いペースとなっている。この点は、状況に応じて適切な予算執行と、調査計画の実施を心がけるようにしたい。2023年度には東北地方へのフィールドワークを実施する方向(5月から開始した)で、足繁く通うことを計画しているが、引き続きコロナ事態をかんがみてさらなる修正・調整を余儀なくされることもあるだろうと考え、備えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度に掛けては、引き続き、集団移転した/自力再建で地元に残った人びと、あるいは地域外に転出した人びとが、震災後10年さらにはコロナ禍を経た以降の状況にどのように適応し、定着をはかりつつあるのか追究するとともに、とくに人びとが厄災とその発生・展開にたいしてどのような「危機意識」や「不安」を抱いているのか、そのうえでどのような対応行動をしているのかという点を明らかにしていく。東日本大震災以外の地域災害や、次なる大きな災害・震災の発生にたいして、地域ごとにどのような対応がはかられてきたのか、そこでどのような「まとまり」の結成や、組織化がはかられてきたのかを見ていくことによって、震災後、人びとが暮らしの不確実性をどのように内面化させてきたのかを論じていく。その際の視点としては、人びとが「上からの復興」と「下からの復興」がせめぎ合うなかで「等身大の復興」を取り戻そうとしてきた過程を示すことによって、本研究課題の「災間社会における地域対応のあり方」の理念構築と実践の双方に一石を投じることを企図する。なお、コロナ禍とその影響については、対面型調査実施においてはWeb調査も活用するなど配慮と工夫を凝らしつつも、他方で災厄としてのコロナ禍を震災の被災地域がどのように受け止め、「復興状況」とともにどう捉えてきたのかを注視しながら調査を展開することとしたい。過去2年、おもなフィールドである東北地方にたいする対面型フィールドワークの実施は新型コロナ感染防止の観点と、地方社会に地域調査が与える影響を鑑みて自粛・遠慮してきたが、2023年度は慎重な計画のPDCAサイクルを心がけつつ同地方へのフィールドワークを再開する。
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Causes of Carryover |
本研究は社会調査の方法論に基づいた研究であり、宮城県石巻市を中心とするフィールドワークの実践を計画していたが、2022年度も想定以上に新型コロナウイルスの間断なき流行が続き、残念ながら現地でのフィールドワークは困難な状況が続いた。コロナ禍が長引くことで、直接的に現地訪問が遠慮される事態の中、Web周辺機器を整備したうえで、Web調査やWebを介した研究会の実施などで情報収集に努めた。また、九州内で災害にたいする地域社会の対応とそこからの復興の取り組みにかんするフィールドワークを実施することで、本研究課題の議論を進めるための一助とするようにするなど、コロナ事態にたいしても臨機応変に対応した。しかしながら、コロナ事態とそれに伴う遠方への出張と対面型での調査にともなう困難や一般的な忌避傾向が、想像以上に社会に定着しており、2023年度になり新型コロナの類型分類が変更されたとはいえ、地方社会にたいするフィールドワークの実施については引き続き慎重に考え、行動する必要があると認識している。調査出張を九州内に限定したこともあり、旅費を中心とした予算消化が遅れている。2023年度は東北地方への調査出張を可能な限り実施することに加え、研究成果(書籍)を研究・調査協力者らと共有して議論をすることで研究内容にさらなるフィードバックを実施することを計画するなど、適切かつ集中的な予算使用を心掛ける。
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Research Products
(5 results)
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[Book] 環境社会学事典2023
Author(s)
環境社会学会編(分担執筆:黒田暁)
Total Pages
742
Publisher
丸善出版
ISBN
978-4621307540
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