2021 Fiscal Year Research-status Report
Research on Independent Living Systems for Youths in Foster Care in Japan: Offering Continuing Care to Care Leavers and the New Vision for Supporting Youth Aging Out of Foster Care
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21K01923
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
園井 ゆり 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 准教授 (40380646)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 自立援助ホーム制度 / 社会的養護 / 18歳以降 / パーマネンシー理念 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、自立援助ホーム制度発展のための効果的実践方策を、自立援助ホームを運営する養育者の意識的要因と、自立援助ホーム制度に関する制度的要因において分析し、提言することである。自立援助ホーム制度とは、1997年に児童自立生活援助事業として法定化された制度であり、社会的養護の措置を解除された18歳以降の自立支援を目的とする。社会的養護を必要とする児童(以降、要保護児童)は、18歳到達後は措置解除となり、自立生活能力が十分ではない場合も自立を強いられる。しかし、一定年齢に達したことで養護が終了するのは問題であり、自立までの継続的支援が必要である。自立援助ホーム制度は、18歳以降の自立支援を目的として設立されたが現在ホーム数は約220カ所程度であり、18歳以降の要保護児童のうち、ホームを利用する児童は約2割にとどまる。また多くは関東地域の大都市圏に集中しており、現状では自立援助ホーム制度は有効に機能しているとは言い難い。 従って、今年度は自立援助ホーム制度発展にむけた意識的要因課題に関する主に理論分析を行い、次の3点の仮説を導いた。自立援助ホームの養育者は、第一に、児童にとっての社会的自立とは、児童がより明確な自己肯定感と主体性を形成することであると理解する。従って、養育者は自立支援を、児童の自己肯定感と主体性を涵養する行為であると理解する。第二に、養育者になった動機が要保護児童の福祉増進のため、という道徳的使命感に基づく養育者においては、入居児童数が多いにも関わらず、養育負担感が少ない。また、第三に、養育者は援助ホーム制度を、児童に対する、特に職業的社会化を達成するための制度として理解する。上記の3点の仮説については次年度以降、自立援助ホームの養育者を対象にした聞き取り調査を行い、検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの本研究の達成度としては、おおむね順調に進んでいる。今年度は自立援助ホームを運営する養育者の意識的要因課題に関する分析を、主に国内外の先行研究の理論分析を通して行い、以下3点の仮説を得た。 第一に、養育者の自立支援に対する理解度については、自立援助ホームの児童は、他の要保護児童(里親委託児及び児童養護施設入所児)に比べ、現在の平均年齢が約18歳と高く、約7割が被虐待経験を持ち、半数が知的障害やADHD等の障害を持つ。被虐待経験の割合及び障害を持つ割合は要保護児童の中で最も高く、自立援助ホームの児童は自己肯定感や主体性が低い傾向にある。従って、自立援助ホームの養育者は児童における社会的自立を、より明確な自己肯定感と主体性を形成することであると理解し、自立支援とは児童の自己肯定感と主体性を涵養する行為であると理解すると推察される。 第二に、養育者の多人数養育に対する負担感については、自立援助ホームには3~4人が入居し、養育者の養育負担は比較的大きい。本研究では養育者の養育負担感を、特に養育者における、養育者になった動機との関連から考察した。その結果、養育者になった動機が要保護児童の福祉増進のためである、とする養育者は、養育負担感が少ないと推察される。 第三に、養育者の自立援助ホーム制度に対する認識度については、養育者は自立援助ホーム制度を、児童に対する職業的社会化および進学支援を提供する制度として認識するのではないかと推察される。自立援助ホームの児童は中学卒業後、就職等を行った者が約4割を占め最も多い。従って、養育者は児童に対し、職業に従事するための社会的規範や行動様式を教え、児童が職業生活を円滑に行えるよう支援を行う。また自立援助ホームの児童には高校中退者が多く、高校卒業資格取得から大学進学までの支援を行うことも、ホームの重要な役割として認識すると推察される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究についても概ね研究計画通り進める。次年度は今年度までの研究成果をふまえ、主に自立援助ホーム制度に関する「制度的要因」課題に関する分析を行う。自立援助ホームの養育者に対する聞き取り調査を実施し、以下の3点を検討することで解明する。 第一に、自立援助ホーム制度における支援内容の統一的基準を定めることについて、自立援助ホームにおける支援内容は各ホームにより異なる傾向にあり、ホーム間での支援内容の差が問題となっている。本研究では、児童の社会的自立に必要かつ適切な習得課題(経済的自立基盤の習得や職業的規範の習得等)を明確にすることで、自立援助ホームにおける支援内容についての統一的基準を定める。すなわち、自立援助ホームでは児童が、これらの習得課題を達成するために必要な支援を中心に提供することとする。 第二に、自立援助ホームにおける効果的な進学就労支援制度について、進学支援としてはホームの児童には高校中退者が多い実情をふまえ、高校卒業資格取得から大学進学までの支援を行う。具体的には、給付型奨学金制度や公的自立支援資金制度等を活用し、主に経済的に進学基盤を支援する。就労支援としては安定した就労先確保から就職後の就業継続までの支援を行う。就労支援は、経済的支援に加え職業選択時の相談援助等、精神的支援を行う。これらの支援は2017年導入の支援コーディネーター制度(進学就労支援を関係機関と連携し行う制度)の活用により行う。 第三に、社会的養護制度と自立援助ホーム制度との機能的連関について分析を行う。自立援助ホーム制度は家庭養護及び施設養護の措置を解除された、全要保護児童に対する自立支援を担う制度として機能する点について検討する。以上、次年度においては自立援助ホーム制度についての課題点を検討することでより効果的な制度の構築に向け、提言を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、今年度は引き続き新型コロナウィルス感染症が続いたため、自立援助ホームの養育者に対する聞き取り調査の実施が極めて困難な状況にあったことが挙げられる。そのため今年度は、より効果的な聞き取り調査の実施にむけ、自立援助ホーム制度についての国内外の理論研究を中心に検討し、論点を整理した。次年度は、聞き取り調査実施のための旅費の一部及び謝金を次年度以降に繰り越す。聞き取り調査は、これまでの科研研究における調査対象であったファミリーホームにおいて、自立援助ホームを同時に運営する養育者についての調査を行うほか、これまでの主要な調査地域であった北海道および九州地域を中心に、自立援助ホームの養育者を対象にした調査を実施予定であり、そのための費用を必要とする。また、聞き取り調査実施後の調査データの書き起こしのための費用を必要とする。さらに、自立援助ホーム制度が充実するアメリカないしイギリスにおける自立援助ホーム制度関連資料の収集のための費用を必要とする。
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