2021 Fiscal Year Research-status Report
韓国におけるベーシックインカム構想と後発福祉国家のゆくえ
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21K01992
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金 成垣 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (20451875)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ベーシックインカム / 社会保障 / 福祉国家 / 韓国 / アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
ベーシックインカムは、「政府がすべての国民に対して個人を単位として最低限の生活を送るのに必要とされる額の現金を無条件 で支給する制度」である。本研究においては、韓国で最近盛んになっているベーシックインカム構想に着目して、①そのベーシックインカム構想を生み出した政策的文脈をどう捉えるか、②ベーシックインカム構想の具体的な内容は何か、③そのベーシックインカム構想がもたらす新しい福祉国家への道は何か、という問いを設定し、後発福祉国家論の視点からその答えを探ることを目的とする。 以上の問いへの答えを探るために,当該年度(2021年度)には,韓国で最近盛んになっているベーシックインカム構想に着目して次の課題に取り組んだ。第1に,コロナ禍の韓国で急速に広がっ ているベーシックインカム導入論とそれを含む社会保障制度改革の展開過程を把握した。その成果を論文「文在寅政権下の社会保障制度改革」(『週刊社会保障』No.3134,2021年)を発表した。第2に,韓国におけるベーシックインカム構想の政策的文脈とその意味を後発福祉国家論の視点から検討した。その成果を論文「社会保障制度改革の政策的文脈:ベーシックインカムをめぐる韓国の経験と政策論への示唆」(埋橋孝文編『社会政策研究入門 政策評価と指標 第2巻』明石書店,2022年)と「後発福祉国家論の再検討」(上村泰裕ほか編『福祉社会学のフロンティア:福祉国家・社会政策・ケアをめぐる想像力』ミネルヴァ書房,2022年)。 ただし,コロナ禍で韓国およびアジア諸国・地域での現地調査ができていないことが大きな課題として残っている。次年度(2022年度)は,状況が許す限り現地に訪問し資料収集や関係者とのインタビュー調査を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は,コロナ禍にもかかわらず,現在までおおむね順調に進行している。韓国やアジア諸国・地域での訪問調査ができていないものの,日本からアクセスできる資料の収集やオンラインを活かしたインタビュー調査などを行いつつ,これまでの研究成果を単著としてまとめる作業をすすめた。その結果,次年度(2022年度)6月の出版が予定されている(タイトル:『韓国福祉国家の挑戦:キャッチアップを超えて』(仮)明石書店)。
ただし,上記のように,韓国やアジア諸国・地域での現地調査が今後の課題として残っている。とくに2022年3月に韓国で行われた大統領選挙の状況を含めて,最近の改革動向やその具体的な中身を把握するために,次年度には可能なかぎり韓国での現地調査を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(2022年度)は,当該年度(2021年度)の到達点をふまえて研究を遂行していく予定である。具体的にはつぎの通りである。(1)最近の政策動向についての調査および分析である。2022年3月の韓国の大統領選挙において与野党間の政権交代が起きた。これまで5年間の進歩政権が終わり,保守政権が成立した。進歩政権では,「福祉の拡大」をめざし,具体的には基礎年金の引き上げや失業扶助および児童手当の導入など,現金給付を中心とした改革を行った。それに対して保守政権では,「福祉の抑制」をめざすことが予想されている。ただし,「福祉の抑制」といっても現金給付に限ることが多く,その一方で,育児や介護などのサービス給付に関しては「福祉の拡大」も予想される。この辺の政策動向を正確に把握するために現地調査を行う予定である。それをふまえて(2)韓国における政策動向が示す政策論的かつ理論的インプリケーションを検討する予定である。それに関しては,韓国のみならず,諸外国の政策動向についての把握も必要となる。そのため,可能な限り他のアジア諸国・地域での現地調査に取り組みたい。
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Causes of Carryover |
当該年度(2021年度)は,コロナ禍の影響で海外への渡航ができず,予定していた韓国や他のアジア諸国・地域での現地調査ができなかった。国内でも感染拡大のため地域間の移動が自由にできず,他地域の研究者との打ち合わせなどもオンラインがメインとなった。それによって,旅費の支出がほとんどできず,次年度使用額が生じた。次年度については,状況が許すかぎり,現地での訪問調査や資料収集および成果発表などに取り組んでいきたい。もちろん,コロナ禍の状況によっては,オンラインを併行するかたちで研究を進めていく予定である。
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Research Products
(5 results)