2022 Fiscal Year Research-status Report
韓国におけるベーシックインカム構想と後発福祉国家のゆくえ
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21K01992
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金 成垣 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (20451875)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ベーシックインカム / 社会保険でないもの / 福祉国家 / 社会保障 / 韓国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究においては、韓国で最近盛んになっているベーシックインカム構想に着目して、(1)そのベーシックインカム構想を生み出した政策的文脈をどう捉えるか、(2)ベーシックインカム構想の具体的な内容は何か、(3)そのベーシックインカム構想がもたらす新しい福祉国家への道は何か、という問いを設定し、後発福祉国家論の視点からその答えを探ることを目的とした。 以上の問いへの答えを探るために,当該年度(2022年度)には,とくにコロナ禍の韓国で急速に広がったベーシックインカム導入論に着目して,その背景と中身および意義と展望について検討した。 その成果として,論文①「韓国における『社会保険でないもの』の広がり」『週刊社会保障』No.3191,2022年10月,」,②「コロナ禍でみえてきた韓国社会の脆弱性と新たな可能性ーー雇用と社会保障を中心に」(『現代韓国朝鮮研究』第22号,2023年1月)を発表した。この2つの論文では,主にコロナ禍で直面した雇用の不安定化と家族の危機に対して,従来の社会保障制度が適切に対応できず,とくに貢献と給付の関係が明確な社会保険の限界が明らかとなり,いうならば「社会保険ではない制度」の整備が求められていること,そして実際にそういった制度が広がっていることを明らかにした。ベーシックインカムこそ,その「社会保険ではない制度」の一種である。 また,単著『韓国福祉国家の挑戦』(明石書店,2022年7月)を刊行した。ここでは,コロナ禍の状況を含めて,この数年間の韓国における社会保障制度の展開を,後発福祉国家論の視点から検討し,その政策論的および理論的示唆を明らかにした。 以上の研究成果に加え,当該年度は,以前よりコロナ禍による規制が緩和されたことによって,韓国国内でのフィールド調査やヒアリング調査など現地調査を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は,コロナ禍にもかかわらず,現在までおおむね順調に進行している。当該年度には,コロナ禍による規制が緩和されたことにより,韓国国内での現地調査を行うことができた。昨年までは,日本からアクセスできる資料の収集やオンラインを活用したインタビュー調査を行ってきたはが,当該年度には,現地調査を通じて実態をより明確に把握することができた。 本研究では,韓国が主な対象となっているが,韓国を含むアジア諸国・地域へと研究対象を広げていくことをめざしている。当該年度には,次年度からの本格的な調査に向けての予備調査としてベトナム調査を行うこともできた。 以上のように,本研究課題は現在まで順調に進んでおり,今後の新しい課題に向けての準備にも取りかかっている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(2023年度)は,当該年度(2022年度)の到達点をふまえて,研究を遂行していく予定である。具体的には次の通りである。 (1)最近の政策動向についての調査および分析である。2022年3月の大統領選挙において与野党間の政権交代が行われた。これまで5年間の進歩政権が終わり保守政権が成立した。進歩政権では,「福祉拡大」をめざし,具体的には基礎年金の引き上げや失業扶助および児童手当の導入など,現金給付を中心とした改革を行ってきた。それに対して保守政権では,財政健全性を最優先として「福祉拡大の抑制」をめざそうとしている。その一環として,年金改革を試みている。その準備過程として当該年度の議論をふまえて,次年度には本格的な改革をすすめようとしている。しかし他方で,急速に進む少子高齢化によって「福祉拡大」が強く求めらる声も高まり,そういった複雑な状況のなかで,実際どのような改革が展開されるかが興味深いところである。次年度は,現地調査を通じてこの辺の状況を把握しまとめる予定である。 (2)韓国における政策動向が示す政策論的かつ理論的インプリケーションを検討する予定である。これに関しては,韓国のみならず,諸外国の政策動向についての把握も必要となり,次年度には,可能な限り他のアジア諸国・地域での現地調査に取り組みたい。
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