2023 Fiscal Year Research-status Report
てんかん患者の就労支援―ICTを用いた遠隔リハビリと合理的配慮のシステムの構築
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21K02052
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Research Institution | Teikyo Heisei University |
Principal Investigator |
廣實 真弓 帝京平成大学, 健康メディカル学部, 教授 (90609645)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒岩 眞吾 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (20333510)
逸見 功 日本赤十字看護大学, 看護学部, 名誉教授・非常勤講師 (50173563)
安 啓一 筑波技術大学, 産業技術学部, 准教授 (70407352)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | てんかん患者 / 就労支援 / 談話の聴理解 / 業務内容の伝達 / 朝礼課題 / 語連想課題 / ICT / 認知コミュニケーション障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)認知コミュニケーション障害は記憶障害等の高次脳機能障害と合併する。我が国には就労支援に役立つ認知コミュニケーション障害の教材が不足している。そこでてんかん患者の就労支援に役立つ教材の作成を2021年度から開始した。聴理解の問題は、2023年度にはアナウンサーによる全問題の録音が完成した。就労支援で必要となる合理的配慮の提案ができるように談話の聴理解に影響を及ぼすと推察されている要因のうち[談話の長さ(長短)]や、[文の構造;文頭から句点までに含まれる文の数が1文か、2文のものも含まれるか]、[問題が提示される発話速度(普通、ゆっくり)]、問題文に使われる[単語の親密度]を統制し、かつ推論が必要となる文は問題文には含めずに作成した。この結果、どのような文のまとまり(以下談話と呼ぶ)ならば当事者(患者)が正確に聴理解できるのかを検討できる。聴理解の総問題数は延べ600問となった。2023年度出版社での印刷作業に入ることができたが、出版社の作業が予定よりも遅れており、研究期間を1年延長することにした。木下らは右半球損傷により認知コミュニケーション障害の一症状である談話の聴理解の低下を示した患者に、上記の教材を用いた評価・介入について報告し(第48回日本コミュニケーション障害学会学術講演会、松山)、現在その詳細をまとめた論文を投稿中である。 2)「後天性脳損傷のための認知コミュニケーションチェックリスト日本語版(以下CCCABI日本語版)」(廣實翻訳;2019)を用いて、認知コミュニケーション障害のスクリーニングをする試みを継続してきた。2023年度は後天性脳損傷患者ではない、発達障害のあるデイサービス利用者のコミュニケーションの問題をCCCABI日本語版を作業療法士が用いて把握できるのではないかとの予備研究を行い、その実現可能性について報告した (須賀ら、2023)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1)認知コミュニケーション障害の聴理解の教材は、2023年度にはアナウンサーによる全問題の録音が完成した。この教材の作成に当たっては、就労支援で必要となる合理的配慮の提案ができるように工夫した。談話の聴理解に影響を及ぼすと推察されている要因のうち[談話の長さ(長短)]や、[文の構造;文頭から句点までに含まれる文の数が1文か、2文のものも含まれるか]、[問題が提示される発話速度(普通、ゆっくり)]、問題文に使われる[単語の親密度]を統制し、かつ推論が必要となる文は問題文には含めずに作成し、どのような文のまとまり(以下談話と呼ぶ)ならば当事者(患者)が正確に聴理解できるのかを検討できるようにした。聴理解に影響を及ぼすと推察される要因を組み合わせることができるため、本教材の聴理解の問題は8種類に分類できるが、総問題数は延べ600問で構成されている。2023年出版社での印刷作業に入ることができたが、問題数が多いことと、読者が使いやすいようにブルーレイでの出版になったため、出版社の作業が予定よりも遅れており、研究期間を1年延長することにした。研究期間が延長されたため読解の問題120問も準備した。 2)COVID-19の影響で、2021年度以降、対面で行う評価・介入の研究が滞ってしまった。COVID-19が5類感染症に移行し、研究対象者のリクルートが可能になってきたが、フィールドだった2施設で諸事情により研究対象者のリクルートが難しくなったため、談話の聴理解の低下への介入効果の検証、ICTを活用した語連想課題の訓練効果の検証ができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
1)前年度に引き続き、2023年度も談話の理解の教材を出版するための作業を実施した。聴理解の問題600問の録音作業が終了した。しかし出版社の作業が遅れており、研究期間の延長が必要となった。そのため、聴理解の能力と比較するための読解の問題120問も追加した。今後は、出版社での印刷作業を急いでもらうよう、進捗状況の報告を定期的にしてもらうことにした。 2)COVID-19の影響とフィールドだった施設の諸事情で、介入効果を検証する研究が滞ってしまった。しかし研究代表者が2024年度から、てんかんセンターのある埼玉医科大学に所属が代わることから、対象者のリクルートがより円滑になることが予想される。そこでシングルケースデザインに基づく(1)上記の教材を用いた談話の聴理解の低下に対する介入の効果についての研究や、(2)言葉の出にくい患者に対するICTを活用した語連想課題の訓練効果についての研究を、埼玉医科大学の倫理審査が終了し次第、再開する予定である。またそれに加え、(3) CCCABI日本語版を用いたスクリーニングをSTだけでなく、他職種や当事者・家族がより簡単に実施すことを支援するマニュアルの作成を目指し、調査研究を開始予定である。
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Causes of Carryover |
対象者のリクルートができず研究が予定より遅れてしまったが、2024年4月から研究代表者がてんかんセンターのある埼玉医科大学に所属が代わることから、対象者のリクルートが確実になるため、研究を再開する予定である。再開する研究はシングルケースデザインに基づく(1)談話の聴理解の低下に対する介入の効果についての研究と、(2)言葉の出にくい患者に対するICTを活用した語連想課題の訓練効果についての研究である。結果は論文にまとめ投稿予定であり、そのための諸費用に研究費が必要である。またCCCABI日本語版を用いたスクリーニングをSTだけでなく、他職種や当事者・家族でも簡単に実施できるようになるためのマニュアルの作成が必要だと考える。認知コミュニケーション障害の症状に不慣れな新人STや他職種は、CCCABI日本語版の質問を読み上げただけでは当事者に理解されない場合に他の言語教示に置き換えられず、正確にチェックリストを活用できないことがある。マニュアルは、経験豊富なST20名を対象に質問が通じない場合にどのような言語教示を用いるかアンケート調査(自由記述)を実施し、一致度の高い言語教示をマニュアルとしてまとめ公表する予定である。その調査研究への研究協力者(20名)に対する謝金や、調査研究に先立ちアンケート内容が適切かどうかをヒアリングする際の旅費、通信費を賄う研究費が必要である。
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