2021 Fiscal Year Research-status Report
児童間性暴力の発生メカニズムおよびアセスメントツール開発に関する研究
Project/Area Number |
21K02062
|
Research Institution | Kansai University of Welfare Sciences |
Principal Investigator |
遠藤 洋二 関西福祉科学大学, 社会福祉学部, 教授 (90588716)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 児童養護施設 / 児童間性暴力 / リスク要因 / アセスメント / 実践モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
児童養護施設、児童自立支援施設、児童心理治療施設等、入所型児童福祉施設において、児童同士の性暴力(児童間性暴力)の被害を受けることは、虐待等の理由により施設に入所した児童にとってはトラウマの再現であり、他の児童にとっても健全な成長に対して大きな妨げになるものである。これまで児童間性暴力の要因は加害児個人の特性に焦点があてられ、当該児童を措置変更するといった表面的な解決方法に依存していた。研究者らのグループは、そのような事案の背景には、個人の特性だけではなく、児童間性暴力を強化する「施設システム」が存在することを明らかにしてきた。 児童間性暴力の予防・早期発見・効果的な介入をするためには、このような児童の特性と施設システムの両者を分析するツール(アセスメントツール)が必要不可欠であり、本研究はそのようなツールを開発するための研究である。 アセスメントツールを開発するにあたっては、児童間性暴力のメカニズムを理解する必要があり、過去に研究者らが全国の施設で調査を実施し、300を超える児童間性暴力の具体的事例を整理分析し、性暴力の背景にある個人の特性を類型化することとした。そのため、研究者が主宰する「神戸児童間性暴力研究会」のメンバーのうち、多くの児童間性暴力事案の実践に関わった経験を有するメンバー2名の協力を得て、研究者も含めた3名(および記録のための研究補助者1名)が共同で各事例の詳細なデータを確認しながら、事例の特徴を表すキーワードを付けていく作業を複数回行い(コーディング)、全てが終わった段階でキーワードを整理した結果、29種のキーワード(コード)が抽出された。 ひとつのコードが付けられた事例も、複数のコードが付けられた事例もあり、それぞれの事例の基本属性との関係などについて、統計学的な分析を行い、児童間性暴力の背景にある個人特性について、一定の構造を明らかにしていきたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度の研究は以下の2つに集約できる。①既に収集していた児童間性暴力事例の類型化、②類型化した事例の中からそれぞれ一定数抽出して、当該事例に関してより詳細なデータを収集するためのインタビュー調査。 「①」に関しては、「神戸児童間性暴力研究会」のメンバーの協力も得て、308事例に関してコーディングを終了し、「曖昧な境界線」、「エスカレートした性行為」、「誤学習」、「コミュニケーションツールとしての性」、「再生的被害化傾向」など29のコードが抽出された。現在、さらにそれを整理分析し、類型化する作業を行っている。 「②」に関しては、類型化の作業が終了していないため、詳細なインタビュー調査の対象が特定されていないことから現在まで実施に至っていないが、2か所の児童養護施設においては予備的な調査を実施した。 計画と実態との乖離であるが、新型コロナウイルス感染症の蔓延等により、対面での研究会や訪問調査が実施できない状態が続いたことが主な要因である。特に、訪問調査に関しては、7回の計画した中の5回が訪問予定先施設の都合によりキャンセルになり、実施できた調査においても現地に到着してから、3か所の施設のうち2か所において急遽訪問が取りやめになったこともあった。
|
Strategy for Future Research Activity |
児童間性暴力の類型化については間もなく終了するため、その後は各々の類型から詳細な調査を行う事例を抽出し、インタビュー調査を行いたいと考えている。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の蔓延状況等によっては施設への訪問が困難な場合も想定されため、事例の詳細を把握できる様式を策定し、事例内容の記入を依頼した上で、オンラインによるインタビューを行うなどの方策も考えたい。 取り扱うテーマが児童の性暴力という極めてセンシティブな内容だけに、研究の意図等について、インタビュー対象施設が十分に理解することではじめて成立するものであり、これまでそのような姿勢で調査研究を行ってきたからこそ、全国に多くの協力施設ができたことを考えれば、訪問調査による対面のインタビューは可能な限り模索するつもりである。 また、並行して、「性暴力の背景となった施設システム」、「施設独自の取り組み(性教育・被害、加害プログラム等)」に関するインタビューも、新型コロナウイルス感染症の蔓延状況を見ながら実施していきたいと考えている。なお、インタビュー調査は、ICレコーダーに録音し、逐語化した上で質的に分析する。 上記の結果を踏まえ、神戸児童間性暴力研究会メンバーの協力も得ながら、アセスメントツールの開発を行っていく予定である。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の蔓延により、インタビュー調査が行えなかったことで、旅費等が当初の予定と比べ支出が少なかったため、次年度以降に繰り越したい。
|