2021 Fiscal Year Research-status Report
明治の「履歴史料」にみる地域に生きた「知識労働者」のリテラシー形成とキャリアパス
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21K02194
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
松尾 由希子 静岡大学, 教職センター, 准教授 (30580732)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池田 雅則 兵庫県立大学, 看護学部, 教授 (60609783)
山下 廉太郎 朝日大学, その他部局等, 准教授 (80770932)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | キャリア形成 / 小学校教員 / 履歴書 / 辞職 / 学習履歴 / 職務履歴 / キャリアパス |
Outline of Annual Research Achievements |
全期間の研究の目的は、明治期の「履歴史料」を用いて、地域の「知識労働者」のリテラシー形成及びキャリアパスの実態について、あきらかにすることにある。 令和3年度は、地域の「知識労働者」として、長崎県(南松浦郡・北松浦郡)の小学校教員を対象に、明治19年に(「小学校令」制定の年)に作成された教員の履歴書(36名)及び辞職届(36名)を用いて、任用以降のキャリア形成について、検討した。具体的には、1学習履歴及び職務履歴、2当該期の教員免許制度の影響に着目した。その結果、主に3点が明らかになった。1つに、履歴書によると、教員が任用以降学んだ内容は検定試験の学科と重複していた点にある。学びの動機が検定試験にあったのかという点については判然としないが、検定試験の受験に対応できる学びだった。2つに、履歴書のある36名のうち約2割の教員が小学校教員以外の職業(警察や「県職員」、裁判所書記等)や中学校教員に転職し、その後教員として復職した。転職という履歴は、小学校教員のキャリアにどのような影響を及ぼすか。月俸に限定すると、転職の経験は復職後の月俸に影響を及ぼさない。また、同じ教員であっても異なる学校種や異なる地域における勤務は、長崎県の小学校教員としてのキャリアに影響を及ぼさないことがあきらかになった。ただし、令和3年度の研究ではキャリアの評価指標として、転職等の前後の月俸を用いたが、今後月俸以外の評価指標についても模索したい。3つに、教員免許に有効期限を設けた当該期において、最も多い辞職理由は教員免許の失効だった。教員免許が満期になる前に、検定試験を受験することで、辞職を回避できるが、受験しないまま辞職していく人も多かったと思われる。また、転職等で教職を離れている間に免許が失効することも考えられ、復職への障壁になる可能性もある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
以下の2点を理由に「やや遅れている」。 1つは、教員以外の「知識労働者」のキャリア形成(リテラシー形成とキャリアパス)である。本研究が研究対象とする「知識労働者」には、教員、地方官吏、技術者等を想定している。令和3年度について、小学校の男性教員について研究を進められたが、教員以外の職業及び女性教員については、ほとんど着手できなかった。コロナ禍により十分な史料調査を遂行できず、またやむを得ない事情により勤務形態を変更したメンバーもいて、研究計画に修正が生じたためである。しかし、研究に必要とする史料の一部はすでに入手しており、令和4年度は新たな史料の収集とともにキャリア形成に関わる研究を遂行し、キャリア形成における職業ごとの比較対象を行なう。2つに、長崎県島しょ部の履歴史料の調査ができなかった点にある。コロナウィルス感染症まん延防止重点措置等が発令されたことで、調査が実施できなかった。本研究の事前調査により、史料の所在を確認し、閲覧の許可は得ているため、令和4年度は調査を行なう。 以上の理由で、当初の予定どおりに研究が進んだとはいえないが、研究代表者及び分担者で、令和4年度以降の研究計画の修正を行ない、史料の一部は収集できているため、令和4年度以降に史料収集及び分析を行ない、論文として成果を発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
主に、以下の4つの視点で、研究を遂行する。1つに、「小学校教員以外の職業のキャリア形成」に関する研究である。具体的には技術官や判任官等の詮衡任用について、制度や実態についてあきらかにする。2つに、「小学校の女性教員と男性教員のキャリア形成の比較」を行なう。この作業により、性別がキャリア形成に及ぼす影響について検討できる。3つに、ミクロ的な視点で地域がキャリア形成に及ぼす影響について検討するために、令和3年度の研究対象地域だった長崎県北松浦郡・南松浦郡の中でも島しょ部について学校の史料を収集し、分析を行なう。4つに、史料収集及び文献調査を行ない、履歴書や辞職願以外の新しい「履歴史料」の発掘をめざす。
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Causes of Carryover |
【理由】令和3年度は【現在までの進捗状況】で述べたように、新型コロナウィルス感染症まん延防止等重点措置で、史料調査が遂行できなかったこととやむを得ない事情による勤務形態の変更により、予定していた史料調査や雇用等に変更が生じ、研究費を繰り越した。繰り越した研究費については、次年度において主に史料調査及び文献調査に関わる旅費や分析の際に必要となる設備費や人件費として使用する予定である。 【使用計画】 史料調査:令和4年度の研究課題を遂行するための「履歴史料」(教員や技術官や判任官等)収集を必要とする。そのため、史料が所蔵されている長崎県島しょ部や愛知県の学校や滋賀県県立文書館を中心に、一人あたり3~15日程度の調査(閲覧および撮影)を行なう。また、当該期の職業をとりまく制度を把握するために、国会図書館等で文献調査を実施する。令和3年度は、【現在までの進捗状況】で述べた理由により、予定していた雇用や史料調査等に変更が生じたため、研究費を繰り越した。繰り越した研究費については、次年度において、主に史料調査に関わる旅費や分析をする際に必要とする雇用として使用する予定である。 研究成果の発表及び準備:研究成果を発表するために、学会や研究会に参加する。また、研究成果を論文として投稿するため、論文執筆にあたり研究課題に関する書籍購入や論文(複写、依頼)を必要とする。
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Research Products
(1 results)