2021 Fiscal Year Research-status Report
教育委員会のエビデンスに基づくアウトリーチ型の対話的指導行政の実践的開発研究
Project/Area Number |
21K02201
|
Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
坪井 由実 愛知県立大学, 教育福祉学部, 名誉教授 (50115664)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 教育委員会 / スクールロイヤー / スクールソーシャルワーカー / アウトリーチ型指導行政 / 子どもの権利アドボケイト / 学校の民主主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年4月、これまで5年間にわたり研究協力協定校5校を管理する鳥取県南部町教育委員会に今回の科研テーマにかかわって研究協力協定を依頼した。しかし、コロナ禍で、子ども、保護者・住民、教職員の四者の対話による「学校づくり会議」の開催は難しいとの判断から、協定の締結を見送ることとなった。こうした事情から、2021年度は以下の活動に取り組み2つの論文にまとめることができた。 愛知県弁護士会のスクールロイヤー5名の方と大学研究者とによる共同研究(代表:松原信継、清泉女学院大学教授)に加わり、アウトリーチ型の学校支援専門職として、スクールロイヤーとスクールソーシャルワーカーを位置づけ聞き取り調査を実施した。特に、2021年8月には、県下のスクールソーシャルワーカー4名による「スクールロイヤーとの協働の意義と可能性」について協議する機会をもった。さらに、日米の教育ガバナンス改革後の新しい指導行政の特質を、K. WongやJ. P. Viterittiなどの協力を得て解明してきた。これらの成果を、「第5章 対話による学校づくりとスクールロイヤーへの期待」「第11章 外国における紛争解決と子どもの権利擁護制度 Ⅰ. NPO法人『ニューヨーク子どもの権利アドボケイト』の活動」(松原他編著『子どもの権利をまもるスクールロイヤー』風間書房、2022年所収)にまとめた。 また、対話のある学校の公共空間が、子どものみならず保護者・住民などおとなの主権者としての学びにも繋がっていくことについて、「日本国憲法のもとにおける『学校の民主主義』とその担い手」(『季刊教育法』第213号に掲載予定、2022年6月発行)にまとめた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画は、コロナ禍で、市町村教育委員会との研究協力協定の締結が困難なため実施できなかった。しかし、これまでの国内外における共同研究のネットワークを活用して、新たにスクールロイヤーの弁護士との実践的研究交流の場を構築し、研究を発展させることができた。また、これまで(愛知県立大学現職時代)、スクールソーシャルワーカーの研修にかかわってきた経緯があり、愛知県下のスクールソーシャルワーカーへの面接調査も順調に進めることができた。さらに、この1年間、「開かれた学校づくり」の実践交流の場が新たに組織され、ホームページも開設された(https://sites.google.com/view/hgzenkokuren/)。これにより、小学校から高校まで、多様な対話の公共空間が全国の学校に生まれてきている状況もつかめるようになり、教育委員会とも連絡をとることが容易にできるようになったことも大きい。2022年度は、さらにこうしたネットワーク環境を有効に活用して研究を進めていきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度の実績を生かして、2022年度は、アウトリーチ型の対話的指導チームに、スクールロイヤーやスクールソーシャルワーカーを配置して取り組んでいる主に愛知県下の市町村教育委員会を取りあげ、観察、面接調査を実施する。昨年度明らかにしたように、学校づくりの応答的公共空間は、「教育の文化的地域自治」、すなわち、子どもの学習権と、保護者・住民の教育参加権、教職員の「教育の自由」を保障した、市民的・社会的公共性(権利性、共同性)を創造していく実践場と位置づける。様々な事案、ケースにおいて、スクールロイヤーやスクールソーシャルワーカーが学校に支援にはいることによって、当事者間の信頼関係がどのように修復され、子どもだけでなく、保護者・住民、教職員などおとなも、学びあうなかで考え方が変わり、どのような子ども観、発達観あるいは学校観を持つに至っているのか明らかにしていきたい。また、コロナ禍であっても可能であれば、これまでに開発した学習環境調査により、児童生徒、保護者・住民、教職員の意識の変化をデータとしても収集し分析したい。 また、アウトリーチ型の指導行政は、学校評価活動を、教育行政の末端に位置づけることなく、学校の自己評価活動を支援する機能を果たしていくことが大切である。この観点から、スクールロイヤーやスクールソーシャルワーカーの支援のもとで、対話的な公共空間がある学校は、国や自治体が子どもの学習権を保障する条件整備機能をきちんと果たしているかどうかを、学校当事者であるおとなが「評価」し、教育行政に要求していく、主権者としての創造的な活動の場になってきているかどうかも明らかにしていく。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍で、鳥取県南部町教育委員会との研究協力協定を見合わせることになったことが大きい。したがって、当初計画では2023年度までの研究計画であったが、一年延長してでも、学習環境調査を実施した調査活動の可能性を引き続き追求していきたい。
|