2022 Fiscal Year Research-status Report
教育委員会のエビデンスに基づくアウトリーチ型の対話的指導行政の実践的開発研究
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21K02201
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
坪井 由実 愛知県立大学, 教育福祉学部, 名誉教授 (50115664)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 教育委員会 / アウトリーチ型指導行政 / スクールソーシャルワーカー / 服装規定の見直し / 学校づくり会議 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、保護者・住民と教職員の教育統治能力を引き出し、子どもを真ん中に学校づくりをすすめている3つの取り組みについて、観察調査活動をすすめた。 第一に、2022年5月から8月にかけ、X県の2つの県立高校における服装に関する校則の見直しをめぐる学校の対話的実践を面接調査した。見直し自体は、県の「服装規定の見直し」を求める通知がきっかけであった。校長も、県の指導にしたがって生徒参加を取り入れた対応をした。ただ、2校それぞれで、校長、指導教員若干名と取り組みの中心になった生徒数名との懇談で、この取り組みのなかで、生徒たちと教職員の間に大きな変化がうまれていることが分かった。生徒間あるいは生徒と先生との間、さらには生徒と保護者との間の対話的実践のなかで、生徒は生徒の意見を聴き一緒に考えてくれている教師たちとの信頼関係を深めている。また、教師も保護者も、自分たちおとなの子ども観、生徒観が少しずつ変わっていったこと、特に生徒たちの持っている学びを中心とした学校生活における主体性を感じ取ったという。 第二に、8月18日、昨年に続いてスクールソーシャルワーカー(SSWr)4名を囲んで、子どもと家庭支援の事例をそれぞれ1ケースを取り上げ、報告いただいた。SSWrの支援により、子どもはどう学びへの意識が、学びの環境(人間関係を含む)の改善のなかで芽生えていったのか事例をもとに検討した。また、同様に、保護者の教育統治能力を高めていった事例についても検討した。 第三に、南部町教育委員会の福田教育長と水嶋指導主事に、四者による「学校づくり会議」と教育行政の役割について、オンラインでインタビュー調査を実施した。その内容は、『季刊教育法』215号に掲載されるとともに、2022年12月4日に開催された第21回「開かれた学校づくり」全国交流集会では、福田教育長自身にオンラインで発表いただいた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍で四者の対話による学校づくりの実践的な研究計画は根本的に変えざるを得ない状況のなかで、本研究の核心をなす学術的問いを新たに深めていくことはできたように思う。すなわち、わが国の2015年度以降の新しい教育委員会制度のもとで、保護者・住民と教職員の教育統治能力を引き出し、協働して学校づくりを進めるために、どのような教育指導行政を創造していくかである。X県の2つの高校における生徒や教職員との懇談では、自分たちで決定したり選択したりする力ないし能力を「エージェンシー」として位置づけ取り組んでいることが話題となった。これは、生徒の自己統治能力、すなわち、かけがえのない高校生活をより快適な服装ですごしたいと校則改正に主体的に取り組む力の形成として捉えることができるのではないか。
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Strategy for Future Research Activity |
アウトリーチ型の教育指導行政のめざす学校像は、児童生徒と保護者と教職員による対話のある学校である。と同時に、鳥取県南部町の実践にみられるように、高校生サークルから青年団に至るまで、若者たちがまちづくりに主体的にかかわっていくしくみ「青年議会」を組織し、若者の社会統治能力を生かし育てていく取り組みにも注目して観察、面接調査をすすめていきたい。また、引き続き、スクールソーシャルワーカーやスクールロイヤーなど教育関係専門職との連携のなかで、教育委員会の教育指導行政の質的向上をはかっていくしくみを開発していく。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で、鳥取県南部町教育委員会との研究協力協定を見合わせることになったことが大きい。当初計画では2023年度までの研究計画であったが、一年延長して、学習環境調査にこだわらず、教育長をはじめスクールソーシャルワーカーなど教育関係専門職への面接調査などにより、当初の学術的問いを追究していきたい。
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