2021 Fiscal Year Research-status Report
近代転換期日本における教育者の宗教観と宗教者の教育観の形成:その関係的状況の分析
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21K02219
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
梶井 一暁 岡山大学, 教育学域, 教授 (60342094)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 教育と宗教の関係史 / 学林 / 大衆階次 / 私塾 / 寺子屋 / 明治初期 |
Outline of Annual Research Achievements |
近代日本における教育と宗教の関係の発達史を究明する歴史的前提として、近世の状況を検討した。教育史に仏教史・文化史の関心を重ね、近世仏教諸教団が設置した僧侶教育・仏教研究機関を対象に取り上げ、その学習者たる修学僧に関する基礎的考察を進めた。 具体的には西本願寺が17世紀に設置した学林(京都)を扱い、学林の学籍簿にあたる史料『大衆階次』(龍谷大学所蔵)を調査した。『大衆階次』に記載される約16500人の修学僧(所化)のうち、85人をリスト化した。この85人は阿波国出身者であるが、京都の学林に修学しつつ、あるいは修学後、地元で寺子屋(手習塾)や漢学塾を開く者があった。この西本願寺学林の修学僧の状況にみられるように、近世社会において、僧侶はもちろん宗教者であるが、同時に教師であり、漢文を解する知識人でもあった。そして、その修学僧が開く寺子屋や漢学塾の数例は、明治初期まで存続し、近世・近代移行期を通じて地域の教育を支える存在であった。 明治初期の新学制において、寺院は学校教場として使われた。僧侶は教師(訓導)ともなった。近世と近代の教育状況の位相は、単なる断絶と刷新の視点では把握できないはずである。教育と宗教が混交して成立する地域の〈知〉をめぐる状況について、引き続き、検討を進める。近世と近代をつなぐ僧侶(宗教者)は、どのような教育的営為をなしたのか。士庶出身の教師と何が違ったのか。今年度の調査では、これらの実態はまだ捉え切ることができておらず、史料の調査と分析を継続する必要があると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
教育と宗教の関係の発達史を究明するため、近代の歴史的前提として近世の状況の検討を進めた。この前提の検討は重要な基礎的作業だと考えているが、研究の主題である近代の状況に対する考察をまだ本格的に進められていない。 研究の推進のため、史料調査、とりわけ一次史料の収集・分析が重要となる。しかし、そのための県外での史料調査の実施について、県境移動を含み、教員養成機関に勤務する職場状況(教育実習指導など含む)を考慮すると、なかなか積極的に実施しがたい状況がある。したがって、これまでに収集した史料を読み直したり、ウェブ版で活用できる史料を中心に分析してきているが、やはり制約がある。以後、コロナ感染拡大の状況を見定め、史料調査の展開の工夫を図りたい。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題の遂行のため、史料調査の充実が肝要である。史料は一次史料の収集を重視したく、県外の文書館や寺院・個人が所蔵するものを積極的に対象にしたいと考えている。しかし、現在、コロナ感染拡大が落ち着きつつあるとはいえ、その防止の観点から、県境移動は控えるべき状況が続いている。今後の状況を見定め、県外の史料を含め、調査を再開・展開したいと考えている。 また、史料調査については、可能であれば、教育者・宗教者の留学先である海外、たとえばイギリスやドイツなども視野に入れている。ただし、今後の状況を確認しながら慎重に計画・実行したい。 そして、史料調査にもとづく研究成果の公表のため、論文を執筆し、機関誌に投稿できるように準備したい。
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Causes of Carryover |
史料調査が本研究の課題遂行にあたり、重要な過程となる。一次史料の収集を重視しているが、コロナ感染拡大防止の観点から県境移動を控えていたため、県外での史料調査を十分に実施できなかった。主にその調査に関する旅費などが使用できなかった。 次年度の研究遂行についても、コロナ感染拡大の状況を確認し、その対策のうえのものとなるが、調査のための旅費として使用できるように計画したい。また、全国学会の対面形式での参加・発表も控えていたが、状況により、実施したいと考えている。
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