2022 Fiscal Year Research-status Report
近代転換期日本における教育者の宗教観と宗教者の教育観の形成:その関係的状況の分析
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21K02219
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
梶井 一暁 岡山大学, 教育学域, 教授 (60342094)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 教員 / 教育観 / 宗教観 / デス・エデュケーション / 生死 / 教育史 |
Outline of Annual Research Achievements |
教育と宗教は、歴史的にみれば、混淆する領域である。近代以降の日本にあって、公教育における「宗教」は、中立性の原則により、分離されるものである。しかし、「宗教性」は伝統や文化、畏敬や神秘に自ずと含まれる要素のひとつである以上、単純に「宗教性」を取り出した純粋公教育としての学校教育は成立しがたい。道徳教育は宗教を遠ざけるが、「宗教性」は内包している。死生も扱う道徳教育は、「宗教性」を一片で付随するといえる。この問題関心から、近代の到達の一断面としての今日において、デス・エデュケーションの状況と課題をどのように把捉することができるかについて、小学校教育を事例に検討した。 現職教員に対するアンケートや聞き取りを行った。「生」を強調する学校教育は、同時にそれは「死」を射程にいれることに無自覚であるが、死を子どもに教えることをタブー視する、教育現場の当事者たる教員のその意識は、実は死の意識化と裏表の関係にある可能性を論じた。授業で死を扱うことをためらう教員の意識を確認することができたが、それは単純に学校教育から宗教性を排することを意図するものではない。むしろ、公教育における宗教の問題を意識するゆえであり、意識の有無でいえば、有るのである。そして、宗派教育としての宗教教育は公教育で行わないが、宗教的情操に当たる部分で死を子どもに教える際、教員は自分自身の宗教観が未確立である不安をもつ傾向がある。自身における宗教観に関する不安が、教員が授業で死を扱うことをためらわせる要因のひとつとなっている。この不安やためらいをもつ教員のありかたは、宗教性に対する教員の一定の関心の保持を示唆する。デス・エデュケーションは、教育者のなかに宗教観との対峙の契機が立ち上がる顕著な分野なのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
調査は主に国内や県内の範囲で行っている。文献調査は現地閲覧だけでなく、デジタル・アーカイブスの活用を図っている。アンケートや聞き取りによる調査は対面で行うだけでなく、オンラインで行う工夫をしている。しかし、事例や数をじゅうぶんに収集・集計できていない状況がある。 イギリスやアメリカなどの海外の大学や機関においても、19-20世紀に渡航・留学した日本人教育者・宗教者に関する資料を調査したいと考えていたが、実施できなかった。取り寄せが可能な文献は収集を進めているが、一次資料は難しい。手書きを含む一次資料について、主に教育者・宗教者が海外で経験した個人的内容を捉えるため、日記や手紙を調査し、これにより、個人目線での動向を追いたいと思っている。資料収集の充実が課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
国内や県内での調査を継続するとともに、海外での調査も実施したいと計画している。海外ではイギリス(イングランド)を考えており、19-20世紀に渡英し、留学・旅行した日本人教育者・宗教者に関する資料を収集したい。たとえば、オックスフォード・シャーにはセンサスが残り、この台帳を基本情報にしつつ、個人の活動や生活を捉え、滞在日記や、日本に送った手紙などを調査したいと考えている。たとえば、南条や笠原らがいる。 また、研究の視点として、19-20世紀の教育者・宗教者における「心理」の関心と受容についての考察を進めたい。近代日本における「心理」は学説と俗説が相互浸透する分野であり、それが近代の教育者・宗教者の価値観の形成とどのような切り結びの関係にあるのかについて検討する。たとえば、教育者が異常心理に関心をもち、雑誌に投稿するような例も確認される。その関心と子ども理解や教育実践の関連などを考察したいと考えている。 調査・研究の成果は、学会で発表したり、機関誌・大学紀要に投稿し、公表するように努めたい。
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Causes of Carryover |
調査を国内や県内で中心的に行った。現地や対面での調査だけでなく、オンラインでも行った。計画よりも調査回数が少なくなり、旅費の使用も制限的であった。 また、海外での調査を計画していたが、実施できなかった。そのため、旅費の使用が限定的となった。
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