2021 Fiscal Year Research-status Report
スマートシティ社会における地域運営学校の教育づくりと地域再生に関する基礎的研究
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21K02227
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
武者 一弘 中部大学, 人間力創成総合教育センター, 教授 (50319315)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | スマートシティ / 地域運営学校 / 地域教育づくり / 地域再生 / 新しい公共 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、少子高齢化による人口と生活圏のダウンサイジングを所与の条件として、なぜ教育の構造改革と地方制度改革が進むのか、そのとき学校の地域経営とコミュニティの創生がなぜ政策テーマとなり、実際どのように進んでいるのかを、「公共施設等管理計画」と「学校規模適正化・学校再編計画」、それらを包摂する「スマートシティ」を切り口に解明することである。ここでスマートシティとは、「先進的技術の活用により、都市や地域の機能やサービスを効率化・高度化し、各種の課題の解決を図るとともに、快適性や利便性を含めた新たな価値を創出する」取り組みであり、「Society 5.0の先行的な実現の場」と説明されている。 2021年度は、第1に、地域創生社会やスマートシティ等の国や自治体の政策の分析、第2に、地域コミュニティ創生を論じた関連諸学の研究の分析、第3に、既に公共施設の再編に着手しコミュニティ創生に取り組む国内・国外の地域を対象とする調査、の三点から研究を遂行した。 具体的には、第1については、政府の公共施設等総合管理計画やコミュニティスクール等の政策文書の収集・分析や長野県(県立高校再編)・沖縄県(離島のコミュニティ・公共交通・小中学校高校の再配置)・愛知県(豊山町立小中学校再配置)の政策文書の収集・分析、第2については、まちづくり研究や学校建築学等の学会の研究動向の収集・分析、第3については、沖縄県と長野県への訪問調査を各一回実施するとともに、メール等を通じてベトナム(ホーチミン市及び同広域圏)の情報収集をおこなった。これらの調査及び収集した情報が示唆するものは、少子高齢化による人口と生活圏のダウンサイジングを背景とする学校統廃合・再配置が、教育制度改革にとどまらず、地方自治体の行政制度と地域コミュニティのありようの変容を迫っていることである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究実績の概要に書いた内容を、研究目的と研究計画に照らして評価すると、次のとおりである。 第1については、中央政府レベルでは、総務省・文科省を中心に内閣府・経産省の政策文書の収集・分析をおこなった。地方政府レベルでは、長野県、沖縄県・今帰仁村・琉球大学、愛知県豊山町の政策文書を精力的に収集・分析した。 第2については、ほぼ全ての学会の年次研究大会や研究集会等がオンライン開催となったため、収集した資料は郵送による文書資料やE-mail等による電子データ資料であった。 第3については、コロナ禍による厳しい行動制限が課された期間が長かったため(自治体によるもののほかに、勤務大学独自の基準に基づく行動制限もあった)、国内外ともに当初予定していた調査出張はほとんどできなかった。そうした中で、自治体(愛知県と調査対象地)と勤務大学の行動制限が緩和された時期に、相手方の理解が得れた二件の調査が必要最小限の日程で実現できた(沖縄県、長野県)。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は前年度の研究をうけて、研究実績の概要に挙げた三点から研究を推進する。 まず第1の点についてだが、昨年10月に発足した岸田内閣は、菅内閣及び安倍内閣とは政策決定及び政策推進の手法が大きく異なる。後者は強力な官邸主導・内閣主導により政策決定及び政策推進をしてきた(例えば「教育再生実行会議」)。しかし前者は、現時点では、諸アクターは緩やかにつながる様相を呈している(「「教育再生実行会議」の後継組織とされる「教育未来創造会議」は強力な政策立案発信センターの機能を有していない)。そこで関係アクター(内閣府、経産省、総務省、文科省等)を広く捉え、その政策決定への関与と政策推進のあり方を考察する。 第2の点については、まちづくり研究や学校建築研究の学会から、さらに行政学や福祉学等に対象を広げ、関連研究の収集・分析を進める。この際、コロナ禍による行動制限の状況により可能であれば、それら学会年次大会や研究集会等に直接参加し、情報収集を図り専門的な知見を得たい。 第3の点については、前年度は深刻なコロナ禍から国内外の調査出張が非常に限られたものとなったため、2022年度は国内外ともに積極的な訪問調査を行いたい。本研究において、現地調査による実証性は、研究の質を規定する面が強い。自治体・地域・学校について最新の情報を収集する一方で、2022年度も前年同様のコロナ禍に見舞われる危険性があるため、既に相手との関係構築ができており、調査の受けれが円滑に実現できる見通しのもてる自治体・地域・学校(国外:韓国、ベトナム、フィンランド等。国内:沖縄、長野、北海道(宗谷管区)、宮崎県等)も有力な調査対象とする。ただし訪問調査は、国外にあっては、当該国及び日本の渡航制限の緩和・解除があったときであり、国内にあっては行動制限が愛知県と調査対象の自治体において解除されている時期に限って実施する。
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Causes of Carryover |
(理由)本研究は深刻なコロナ禍により、申請・交付段階で2021年度に予定していた国外調査出張は全く実施できなかった。また、国内調査や情報収集等のための出張も、2021年度中に緊急事態措置とまん延防止等重点措置が愛知県と対象地域の双方に出されていない時期であって、勤務校の授業に支障のない時期は非常に短かかった。ようやく出張の予定を立てることのできた時期に、調査訪問の直前と調査訪問の直後にPCR検査を受けるなどして、二件の(沖縄調査、長野調査)の出張が実現できたのみであった。 このほか物品や消耗品は、勤務大学内で獲得した競争的研究費により購入した。 (使用計画)2022年度は、コロナ禍も三年目となり、新しい生活様式の徹底、ワクチン接種の三回接種、個人及び社会におけるコロナ対応のノウハウの蓄積などから、世界的にまた国内的に、2021年度に比べて行動制限が大きく緩和されてきている(2022年5月現在)。調査や情報収集及び研究成果発表のための国内外の出張が活発に行える可能性が高まっている。 また、物品や消耗品の購入については、調査・情報収集・研究成果発表の実施を控えて、各種機器や記録メディア、インクトナー、用紙等の整備をはかる必要がある。こうしたことから、2022年度の使用額に回した分は、コロナ禍の急拡大や重症化リスクの高まり等がない限り、2022年度中に使用することになる見込みである。
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Remarks |
1)編集委員長をつとめた、全国私立大学教職課程協会『教員養成制度改革資料集Ⅳ』(2021年11月)では、2018年2月から2021年11月に公表された内閣府・文科省等の政策文書や日本経団連の提言を収録した。 2)豊山町中学校施設整備基本構想会議(2021年6月から現在)委員として、中学校の再編整備とまちづくりに実践的に取り組んでいる。 本科研で収集・分析した政策文書等がこれら二つの業績に役立った。
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