2021 Fiscal Year Research-status Report
Making cultural properties used in science education as teaching materials and establishing methods
Project/Area Number |
21K02232
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Research Institution | Kyushu Lutheran College |
Principal Investigator |
坂本 昌弥 九州ルーテル学院大学, 人文学部, 教授 (90804641)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 理科教育 / 天然記念物 / 布田川断層帯 / 溝ノ口洞穴 / 野外観察 / 文化財 / 地域教材 / フィールドワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は論文:「指定天然記念物を教材とする理科教育の展開~地域に存在する教育資源の活用~,心理・教育・福祉研究,21,pp.43-52」で示したように,小学校及び中学校理科に係る学習指導要領の内容と,指定天然記念物が内包している教育的価値には,整合する部分が多いことを示した。また地域の野外観察活動で用いる教材を把握しづらい教師にとって,教育委員会が所管する指定天然記念物は,地域固有の特色があり,教材としての情報が得やすく,かつ学術的価値づけも十分になされていることから,教育的運用がしやすいことを示した。それゆえ十分な準備と関係者等との綿密な協議がなされれば,効果的な理解しやすい理科教育活動が期待できる。その反面,指定天然記念物は希少でその地域固有のものであるため,その取扱いについては万全を期す必要がある。 本年度は,曽於市国指定天然記念物「溝ノ口洞穴」についてフィールドワーク及び考察をおこない,理科教育における活用法について研究を進めた。小学校理科では,小学校第4学年から第6学年にかけて地球分野の中で,地層の形成と浸食作用の関係性とその要素(地形や地層,岩石,火山や流水)について観察を通して主体的・対話的に学習することとなっている。「溝ノ口洞穴」は,火砕流堆積物の堆積過程やその構成粒子が観察しやすいため,いわば「天然のボーリング資料」として,学習指導要領との関連性を保ちつつ学習をすることができる。また流水によって非溶結部が浸食されたことによって形作られた洞穴であるため,流水によって浸食されやすい部分(非溶結部)の特徴が視覚的に理解しやすく,児童が仮説を立てながら堆積作用,浸食作用を学習することが可能である。つまり学習指導要領の内容との整合性が高く,また教材になりうる要素も包含する指定文化財ということができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の主題となる指定天然記念物を教材とする理科教育の研究については,自治体等との協議をおこない,フィールドワークを実施することができた。特に種子島でのフィールドワークは,地域に存在する理科教育の教材作成としては有効であった。ここでは特に2点のフィールドワークを実施した。ひとつは,西之表市指定天然記念物「ヘゴ自生群落」(国上大田地区)に自生しているヘゴについての教材化の可能性について研究を行った。ヘゴは大型の木性シダの一種であり,紀伊半島内部や八丈島を北限として自生しているが,ここでは70,000~80,000平方メートルの広大な面積で自生しており,茎の直径も50cmを超えるものも存在した。また次に西之表市指定天然記念物「メヒルギ自生群落」(国上湊)の教材化の可能性について研究を行った。日本国内では鹿児島県と沖縄県にしか自生しておらず,淡水と海水の混ざる泥土状の土地にしか自生しない。ここでは特に樹高が7~8mに達し,その植生は地域の自然環境を示す教材として適していることがわかった。 現地調査の点については,計画的な進捗があるが,新型コロナウイルス感染症拡大防止のため,小学校・中学校等との協議がほとんどできず,児童・生徒によるフィールドワークの有効性についての計画の進捗は2022~2023年度におこなうこととする。
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Strategy for Future Research Activity |
天然記念物を活用する際,最も優先されるべき事項は,当該文化財の保全である。ここでは永続的な保全に影響を与える行為はいかなる場合も認められない。例えば植物の葉や岩石鉱物の採集等は,当該文化財への棄損行為であり,学校における学習活動においても基本的には許されない。そのため,国指定文化財の場合は,事前に文化財行政を担当する文化庁やその窓口である県教委へ現状変更申請等の際に具体的に相談する必要がある。また継続的に次年度以降も教材として活用するためには,当該天然記念物の保存活用計画にその活用方法を取り入れてもらうことも必要である。そのため研究を進めるうえで必要となる当該文化財を所管している地教委等との協議を早急に行う予定である。 また指定天然記念物を教材化する際には,その教材としての信頼性と効果的な学習方法を担保するため,地教委や研究者,地域のボランティア等と綿密な協議が必要である。学習内容を学習指導要領の内容と十分に擦り合わせ,その教育目標を明確にし,教材に必要な要素を具体的に確認する予定である。 野外観察活動であるため,移動のための予算や安全管理を行う。一日遠足等を利用して実施する方法もあるが,地域の特色を活かした理科教育を展開するためには,当該天然記念物の特徴や児童・生徒の発達段階を考慮し,柔軟な学習活動を学校や地教委と協議しながら考える予定である。
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Causes of Carryover |
2022年度予算使用予定は,調査用土壌酸性度メーター,pHメーター,逆目検測棹等の物品購入及び調査(沖縄県伊平屋,鹿児島県曽於市,鹿児島県大島郡知名町)への旅費である。 調査用土壌酸性度メーター,pHメーター,逆目検測棹等は指定されている天然記念物の性格環境調査に用いる。 また調査旅費(沖縄県伊平屋,鹿児島県曽於市,鹿児島県大島郡知名町)は,地元の教育委員会と天然記念物の教育的活用法について協議をおこない,教材開発を行うために必要である。
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