2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21K02245
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
片瀬 一男 東北学院大学, 教養学部, 教授 (30161061)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
天童 睦子 宮城学院女子大学, 一般教育部, 教授 (50367744)
相澤 出 岩手保健医療大学, 看護学部, 准教授 (40712229)
大迫 章史 東北学院大学, 教養学部, 教授 (60382686)
石川 由香里 立正大学, 文学部, 教授 (80280270)
土田 陽子 帝塚山学院大学, 人間科学部, 教授 (30756440)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ミッション教育 / 女子中等教育 / 国家統制 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の近代化において、キリスト教主義学校教育が果たした役割は無視できないが、その役割が十分議論されてきたとは言えない。とくに中等教育の制度化が男子に比べて遅れた女子中等教育は、明治初年から都市部におけるキリスト教主義の私学教育によって担われてきた。その一方で、女子ミッション教育は、良妻賢母教育から逸脱した西洋的リベラルアーツを志向したため、戦前期は、その先進性への憧憬と同時に非女性性への批判というアンビバレントな視線にさらされてきたる。こうしたアンビバレンスは、これまで都市部の女学校について明らかにされてきたが、地方のミッション教育と地域文化の関連は明らかにされていない。 本研究では、これまで東北地方の2校(宮城女学校・弘前女学校)について上記課題を追究してきたが、昨年度の函館の遺愛女学校に続いて、今年度は長崎活水女学校を2回にわたって訪問し、資料収集を行った。 活水女学校は、遺愛女学校と同様、幕末の開港地での1つ長崎にあり、明治初期に創建されたメソジスト系の女子中等教育機関であり、現在も外国人居留民地に校舎がある。加えて被爆地であるにもかかわらず、その戦災を免れていて、明治期以来の学校史料が資料室に多数、残されている。そのうち昭和5年から31年にかけて当時の教頭が書き続けた「教務日誌」(記録した教頭の名前をとって「藤田日記」と通称される)に注目した。そして昭和前期から戦時期の「藤田日記」を全文スキャンすることができた。 目下その内容分析を進めている。全国的に見ても、この時期は、アメリカの教派教団からの寄付の送金が絶え、宣教師の帰国により学校長が日本人に変更となった。また教育勅語やご真影の下賜があり、宮城遥拝などが強制され、英語教育や聖書教育が禁止もしくは制限された。こうした国家の干渉に対し、同校がどう対応したかが、この分析の焦点となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ミッション教育がいかに地方に浸透し、地方の近代化に貢献してきたかを解明することにあった。そこで全国4つの旧制女学校を取り上げ、そのミッション教育資料の収集・分析に努めてきた。その作業は個別に下記記述するように一部手間取っているが、当初予定した学校からの資料収集はほぼ順調に進行している。 まず宮城女学校については、「同窓会誌」の分析、同窓生への意識調査ならびに生活史の聞き取りが終わり、その成果の一部は公表が始まっている。 弘前女学校については、同校の明治30年代の「卒業論文」をすべてスキャンし、翻刻・テキスト化を経てテキスト・マイニングも終え、論文公表の段階に入っている。 遺愛女校は間もなく創基150年を迎えるため(同校史は母教会の函館元町教会の創設を起点としているので)、『遺愛学院200年史』の編纂事業が進行中である。この事業に同校内で資料を使用しているためか、「教務日誌」や「理事会記録」などまだ十分な資料が提供されていない。今後、粘りつよく開示の交渉していきたい。 活水女学校は、遺愛女学校と同様、明治初期に創建されたメソジスト系のプロテスタント女子中等教育機関であり、被爆地の戦災を免れていて、明治期以来の学校史料が資料室に多数、残されている。昨年度2回訪問し、昭和前期から戦時期のほぼ全期間にわたり「教務日誌」をスキャンすることができた。目下その内容分析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
1)今年度は引き続き、資料収集が終わった宮城女学校および弘前女学校の資料につき継続的な分析をおこなう。また函館遺愛については、さらに資料収集が可能か模索する。さらに長崎活水については、同校資料室の協力も得て、今年度は夏と冬、2回同校訪問を予定しており、戦時下および終戦直後の「教務日誌」のスキャンを行うとともに、同窓会に対する調査にも着手する。 2)また最終年度ということもあり、各種学会・講演会での成果の報告に努める。今のところ予定しているのは、7月の東北社会学会(仙台・東北大学)、9月の教育社会学会(弘前・弘前大学)、11月の宮城学院キリスト教文化研究会等である。このうち教育社会学会では「近代化とキリスト教育主義学校教育」というテーマ部会を組み、連名による共同報告を行う。また11月には宮城学院キリスト教文化研究所との共催で、外部講師も基調講演に招いて「ミッション系女性教育の歴史と現在―音楽とリベラルアーツがつむぐ地域革新」というテーマで公開講演を企画している。 3)それ以外に、弘前での明治期の地元紙の収集、国立公文書館での資料収集、キリスト教学校同盟を通じての全国のミッション・スクールに関する資料収集および青山学院資料センターでの資料収集など追加調査を予定している。
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Causes of Carryover |
すでにふれたように、今回の4校の比較の中では、主として対象校の事情(学校史の編纂事業)により、函館遺愛女学校の資料取集が遅れ、まだ資料目録もできていない。そのため、2022年度は同校の様子をみることにして、先に長崎活水女学校の資料収集を優先させた。しかし、その後の現地(函館)との交渉で、作業中の遺愛の資料を閲覧・複写できる可能性もみえてきた。 そこで、次年度は長崎活水の資料収集を継続しつつ、函館遺愛の資料収集を再開することになる。また次年度は外部講師を招いて研究成果の報告とともに、研究交流も図ることも考えている。 次年度使用額はこのための旅費・宿泊費・謝金などに充当することになっている。
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Research Products
(3 results)