2022 Fiscal Year Research-status Report
米国の教育長・校長に対するインダクションとメンタリング構造要因の特質に関する研究
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21K02247
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Research Institution | Tamagawa University |
Principal Investigator |
八尾坂 修 玉川大学, 教師教育リサーチセンター, 客員教授 (20157952)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 新任校長 / 教員インダクション / メンタリングの構造的特質 / メンタリング創出効果 / ターンオーバー(離職,異動) |
Outline of Annual Research Achievements |
アメリカにおいて新任校長や新任教員に対するメンタリング導入の背景には,新任校長の離職(ターンオーバー),つまり現任校から他校への自発的な異動,校長職のキャリア変更・辞任の問題があった。離職の構造要因としては個人的特性(人種的マイノリティ,高度の取得学位,ジェンダー等),勤務校の特徴(地理的位置〔都市・郊外・村落〕),貧困指数,教師の資質,マイノリティ生徒の割合,校種,職場条件と給与(過度のオーバーワーク,ステークホルダーとの関係性,困難校における処遇),職務への情意面(自立性の度合い,満足度,職務へのコミットメント,価値観)が考えられた。 離職に関して看過し得ないことは,人種的同質性である。マイノリティ校長の人権的・民族的特性が生徒集団の大半と合致する場合に,学校を異動する可能性はマジョリティ校長よりも低いことがわかった。また規模にかかわらず,学校内部がサポート文化(同僚性,協働性,校長の指導的リーダーシップ,保護者の協力)を有するかどうかが離職に影響を与え,大規模校でも定着度を高めている例を察し得た。またミドルスクールやハイスクールの校長は小学校長よりもポジションを変えようとする傾向がある。中等学校長にとって生徒の学力とアカウンタビリティが引き金となり,孤立の風土をもたらし,離職に影響を及ぼしている。 しかも校長のキャリア継続性において,情意面は財政的インセンティブや勤務環境要因よりもまさに最も重要な要因である。つまりメンタル面でのモチベーションがやりがいのある環境となり,校長職の継続性につながる。 このことは,校長職に対するキャリア発達支援,心理・社会的支援の機能を有するメンタリングの役割を看過し得ない。メンタリングの創出効果として校長自身(メンティ)への効果のみならず,メンターへの効果とともに学校組織環境(風土)への創出効果をもたらすことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新任校長に対するインダクション導入の背景とメンタリングの構造的特質について,その研究成果を日本教育経営学会や日本教師教育学会で発表することができた。また大学の紀要にも掲載された。 校長職のメンタリング構造との比較で新任教員の離職要因とメンタリングを本流としたインダクションの構造を探った。 新任教員離職(キャリア変更,異動)は給与面の処遇も重要な要因であるものの費用対効果(有益性)として教育困難校(特に都市部,低所得家庭のマイノリティの生徒の在籍校)での離職の場合,雇用環境要件(学校内部,行政,コミュニティの支援的役割,施設・設備の充実)を無視できないことがわかった。望ましいタイミングとしては,メンタリングを核としつつも,セミナー参加の機会,協働学習,管理職とのコミュニケーションの機会,校務軽減措置,教員サポートスタッフの配置などの整合性にある。インダクション,メンタリングの有効性としては,数多くの先行研究において個々の研究の限界は内存するものの,新任教員の定着率(現任校在籍),教育指導力,学校経営力,児童・生徒の学力向上に功を奏しているエピデンスがある。 ただし効果的メンタリングプログラムへの方略として,指導力のあるメンター選出とメンターへのトレーニング,メンティである新任教員の“個別のニーズ”を考慮したメンターとのマッチング(割当)が求められる点である。メンティとメンターの関係性揺らぎへの防止として,事前オリエンテーションは不可欠である。 しかも校内での同僚性を高める校長の支援的リーダーシップのもと,有能なメンターが,メンティである新任教員のリフレクションによる課題(ジレンマ)への気づきを促す必要がある。また自発的に新たな試みを実践させることにより,自己効力感や自信を醸し出す教育困難校でのケースも明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
アメリカの都市部における低所得地域のニーズの高い学校に焦点をあて,教員,校長の離職の状況,定着の一般的要件,困難校固有の定着に向けた学校組織環境との関係性を探る。 特に校長の指導的リーダーシップ要件としての公正性に基づく文化的ギャップの包摂性,自律性に基づく職能成長機会の促進に視点を置く。また教師と生徒相互のケアリングで信頼のある関係性,多文化理解に依拠した教員相互の同僚的関係性,さらには困難校における有能な教員確保のための学区当局と大学等の連携に基づく教員養成プログラムの特質,採用・研修との一貫性のある構造例について考察する。 その際,マサチューセッツ州の教育行政当局担当者,ハーバード大学教育大学院による現職教育長や校長対象の講習会担当教授へのヒアリング調査を通して,ニーズの高い学校における教職員定着,生徒への学習面での効果事例の検討を試みる。そして2023年11月にアメリカ教育学会第35回大会にて研究上の知見を発表することにしたい。 さらにメンタリング構造,メンタリング効果,離職・定着の構造的要因について,校長・教育長・教員三者の同質性・異質性について探ることにする。特にメンタリング構造の特色を探ることにより,日本の若手・ミドル教員育成,新任校長への先輩校長,校長経験者によるメンタリングのあり方,さらには2023年度に制度化・実施された研修履歴を活用した対話に基づく校長の受講奨励の際の適切な人間関係づくり,ワーク・エンゲージメントに向けたポジティブなフィードバックのあり方についての示唆を得ることにしたい。
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Causes of Carryover |
(理由)2023年度に購入した方がよいと考えられる外国文献図書があったこと,コロナの影響により国内外での文献収集作業が滞ったことである。
(使用計画)研究計画を遂行する上で新たな文献入手と学会大会参加・発表への費用として使用する。
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