2023 Fiscal Year Research-status Report
海外展開する高専教育モデルの実装化に関する研究―タイの実装事例を中心に―
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21K02293
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Research Institution | Hiroshima National College of Maritime Technology |
Principal Investigator |
下田 旭美 広島商船高等専門学校, その他部局等, 准教授 (80812784)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | タイ / 比較教育 / 高専 / 工学教育 / 技術者教育 / 教育借用 / 国際教育協力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、タイに日本から移植された5年間の高専教育モデルの実装の実態を把握し、学術的視点「教育借用」論と経験的視点「国内高専の創設当初の課題と取り組み」から、高専教育モデルのタイでの実装化の課題と改善策を明らかにすることである。 タイの高専教育モデルの実装については、現地調査を通して、同モデルの概観(学校基礎情報、年間スケジュールや時間割、入試、教員資格など)とともに、特に高学年で実施する高専独自の卒業研究やインターン、卒業後の進学や進路について整理した。また、タイ高専教育モデルが導入されたテクニカルカレッジを所掌する職業教育局とその歴史を、タイの産業発展を軸に概観し、同モデルのタイへの導入の歴史的、社会的背景を明らかにした。 学術的視点「教育借用」論については、先行研究の検討と教育モデル受容の過程での摩擦や衝突についての理論枠組み、分析項目の設定について国際学会で発表するとともに、高専教育のアイデンティティを探るべく、海外(カンボジア、ベトナム、タイ)の職業教育機関と高専を比較分析し論文にまとめた。さらに、以前に同様の方法で比較分析を行った欧州(ドイツ、イギリス、フランス)と上述の東南アジアの結果と日本の高専を総合的に分析し、日本の高専の特徴(5年間一貫の教育課程、教員の学歴資格、それに伴う卒業研究など)を明らかにした。 経験的視点「国内高専の創設当初の課題と取り組み」では、日本高専学会の学会誌でこれまで扱った高専研究について分析をし、学会誌が他の高専や外部と共有する媒体としての役割を担っていること、高専卒業後にその卒業生の間で強いネットワークがつくられていること、また高専の制度も独法化、新学科の開設など、教育制度自体に変化があること、高専独自の教育活動の向上・改善の論文があることなどが明確になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
タイの高専教育モデルの実装について、タイのテクニカルカレッジに高専教育モデルが導入され6年目となる2023年8月には、4年次の企業でのインターンシップ、5年次の卒業研究、卒業後の就職・進路などについて、関係者や学生への聞き取り調査とともに、関係資料の収集を通して把握を試みた。また、2022年8月にチョンブリ県にある一般のテクニカルカレッジを訪問し、職業教育局の産業人材育成の取り組みについての調査を行った。特にタイの産業発展のビジョンである「タイランド4.0」に向けた産業人材育成に取り組みについての把握を試み、その調査結果を2023年6月の日本比較教育学会にて発表した。また、上記の2つの調査結果から、インターンシップ制度が、タイの教育制度と社会的背景が主な要因となり、日本の高専のそれと比較し変容していることが明確となり、それらをまとめ、2023年11月のアジア比較教育学会にてポスター発表を行った。 学術的視点では、「教育借用」の際に先鋭化する高専教育のアイデンティティを探るべく、欧州と東南アジアの職業教育機関と高専を比較分析し、「第7章 海外から見た高専教育制度の特徴」(書籍『日本式教育の海外展開とインパクト -往還する高専/KOSENと日本式国際学校の新潮流-』)としてまとめた。 経験的視点「国内高専の課題と取り組み」については、日本の高専のインターンシップ制度とともに、日本学生のキャリア形成支援や制度全般についての文献調査を進めている。特にタイで活発に取り入れられている産学連携教育(Cooperative & Work-Integrated Education)について、高専の制度に留まらず日本全体の動向の把握を進めるとともに、2024年6月には、世界産学連携教育協会国際研究シンポジウムに参加し、世界の動向についても追っていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年では、「教育借用」論について、欧州や東南アジアとの比較分析から導かれた高専の特徴と照らし合わせた枠組みを再検討していく。並行して、これまでの高専研究の分析から明確になった高専が重要視している実践的な教育活動(実習やインターンなど)や卒業研究(高専学会誌などの発表の場の設定など含む)、卒業後のネットワーク(就職や進学も含む)などについて、8月にテクニカルカレッジにて現地調査を行っていく。これまでの高専教育モデル移植のプロセスの中で、タイのインターンシップ制度は日本のそれと比較すると大きく変容しており、タイの教育制度と社会的背景が主な要因であることまで明らかになった。最終年では日本の高専のインターンシップ制度だけではなく、その制度の成り立ち、具体的な取り組みについて再整理し、その要因分析を深めていく。また、2024年6月には、世界産学連携教育協会国際研究シンポジウムに参加し、インターンシップ制度(産学連携教育)に関する世界の潮流についても見識を深め、世界の潮流を基礎にタイと日本の比較分析を試みる。そして、9月に開催される日本高専学会において、現地調査と比較分析結果について発表する予定である。 最終的には、これまでの継続的に実施した現地調査から明らかになった5年間のタイの高専教育モデルの全様を、高専の特徴と照らし合わせた「教育借用」論の枠組みを活用し、日本とタイの類似点とともに、インターンシップ制度のような相違点を再度洗い出し、タイに移植された高専教育モデルの実装にかかる課題をまとめるとともに、これまで整理してきたタイの職業教育分野や産業などの社会的背景も考慮しつつ、その改善策を検討していき、11月にタイ・バンコクで開催される東南アジア教育大臣機構・高等教育開発センター主催の「2024年地域間研究シンポジウム」にて発表する予定である。
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Causes of Carryover |
2023年度は、予定通りタイ現地調査の実施し、国内学会(1回)と国際学会(1回)の発表を行った。しかし、学会がオンラインでの開催となったり、参加した国際学会が日本での開催となった。そのため、高専教育制度の海外比較、タイの産業発展や職業教育の歴史などの文献研究も進め、文献研究に必要となる文献(和洋書籍、和洋学術誌)や、ウェブサイトでの情報収集に必要な物品の購入に予算を執行したが、結果的には次年度使用額が生じることとなった。 次年度使用額については、当初の予定通り国際学会参加及び現地調査の実施予算として組み込み適切に使用する予定である。この他、研究課題関連図書費、質問紙調査の実施費、調査対象国からの研究課題関連資料の取り寄せにかかる費用、国際学術誌への投稿論文の英文校閲費として使用することを計画している。
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