2021 Fiscal Year Research-status Report
少数民族文化の伝承実践における文化の変容とアイデンティティ再構築に関する研究
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21K02297
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Research Institution | Tokyo University of Social Welfare |
Principal Investigator |
金 龍哲 東京福祉大学, 教育学部, 教授 (20274029)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 再帰的近代化 / 伝統文化 / 文化の伝承 / 文化変容 / アイデンティティ構築 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、本世紀に入って新しい様相を呈しつつある中国西南少数民族の文化伝承の実践において観察される文化変容の実態とアイデンティティ形成(再構築)のプロセスを明らかにすることを目的とし、具体的には再帰的近代化理論やアイデンティティ研究の最新成果に基づいた新しい問題意識と発展的仮説設定を出発点とし、「文化的危機」への対応において民族間に差異が観察されるのはなぜか、文化の伝承は単なる「再生産」でなく必ず変容を伴うが、その要因とは何か、伝承される文化はどういう特性を持ち、また如何なるロジックで選択されるか、文化を拠り所とする集合的アイデンティティは如何なるプロセスを経て形成されるか、現代において民族集団に身を置く個人は如何にしてアイデンティティの選択と再構築を行うか、等について究明するため、参与観察、インタビュー調査等を中心としたフィールドワークの研究手法を用いる計画だった。 しかし、当該年度における研究活動は、新型ウィルス感染拡大の影響を受け、現地入りを果たすことができなかったので、再帰的近代化理論や先行研究の渉猟を中心とした理論的枠組みの再整理とリモートによる現地インフォーマントのインタビューに焦点を当てて進めてきた。また雲南省社会科学院など現地の研究協力者や学校関係者とのZoom会議や打ち合わせを通して次年度の研究計画の修正作業を行った。 なお、研究成果については、所属学会での口頭発表、学会誌での論文掲載(計2篇)を通して公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究の対象の多くは、山間地帯に居住し、言語を持つが文字を持たない小規模の民族で、歴史的に社会の中心から疎外・排除され周辺化されてきた経緯がある。急激に進むグローバル化と市場経済化の進展に伴って「文化の消失」が危惧される中、民族的アイデンティティの拠り所とする自らの文化を整理し、新たな意味づけを行い、新しい文化の創造を通して文化的正当性を主張する動きが活発化している。グローバル化が周辺化された文化に未曽有の活況の契機をもたらしたともいえるが、この「逆説的」状況は常に不安定で流動的である。 こうした状況にアプローチするため、本研究では有効な研究方法としてフィールドワークの手法を導入して行う予定だったが、前述したように当該年度においては新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け現地入りを果たすことができなかったので、研究は当初の計画より大幅に遅れる結果となった。 現地入りができない状況下での研究活動は、先行研究の渉猟を中心とした理論的枠組みの再整理とリモートによる現地インフォーマントのインタビューに焦点を当てて進められた。また、雲南省社会科学院など現地の研究協力者や学校関係者とのZoom会議や打ち合わせを通して次年度の研究計画の修正、また現地の状況の変化に応じた協力体制の見直しを行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の進め方については、新型ウィルスコロナ感染状況をめぐる二つのケースを想定して研究を進めることとする。 ①新型ウィルスコロナ感染拡大が終息し、現地調査が可能な場合:当初の計画に従って雲南省、四川省、貴州省における少数民族の伝統文化の現状について、母系社会を営むモソ人、土着信仰体系を支える宗教的職能者育成を目指して取り組んでいるプミ族、新たな形態の学校設置を通して民族文化の伝承を試みるイ族、東巴文字など伝統文化の伝承を軸に学校運営を行うナシ族に焦点を当て、社会変化の中の文化変容の実態、そして文化伝承の実践における民族的アイデンティティ再構築の動向について現地調査を実施する。 ②感染拡大で現地入りが不可能な場合:引き続き文献検索システムの活用による情報収集に加えて、Zoom等を活用してミーティングやインタビュー等を行うことで、①で挙げた現地調査の効果に近づくよう努める。雲南省社会科学院や寧浪県永寧中学での試行に基づき、リモート調査の実施方法を工夫するとともに、現地の協力体制を生かし、出来るだけインフォーマントを対象としたインタビュー調査を展開する。 研究成果は、引き続き比較教育学会、文化人類学会、アジア教育学会、中国四国教育学会、東アジア日本学研究学会等での発表を通して公表していく。
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Causes of Carryover |
当該年度の研究費は、現地調査で必要とされる渡航費、現地滞在費、現地インフォーマントへの報酬等を主な支出項目として計上したものだが、新型ウィルスコロナの感染拡大により、現地調査を実施できなかったことによって生じた次年度使用額である。 2022年度は前述した二つのケース(①コロナ感染拡大が終息した場合、②感染拡大が続く場合)を想定し、それぞれに対応できる対策を講じて当初の研究計画を実行していきたい。
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