2021 Fiscal Year Research-status Report
1990年代の少女マンガにおけるジェンダー・異性愛規範に関する表現と解釈の研究
Project/Area Number |
21K02304
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Research Institution | Nagoya College |
Principal Investigator |
西原 麻里 名古屋短期大学, 現代教養学科, 准教授 (20623573)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 少女マンガ / 子どもの読者 / 雑誌メディアの言説 / ジェンダー規範 / 異性愛規範 / マンガ読解 / 少女文化 / 少女同士の友愛 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、1990年代の日本における少女マンガ雑誌(『りぼん』『なかよし』『ちゃお』)とその掲載作品におけるジェンダー規範の分析と、そうした少女マンガの読者がマンガ雑誌・作品から規範に関するどのような知識を得たかについてインタビュー調査をおこなう。 2021年度はおもに①文献調査と②資料調査を進めた。①文献調査では、とくに『りぼん』(集英社)についての言説を分析し、70年代の「乙女チック」から80年代・90年代にかけて、必ずしも異性愛だけでなく同性同士の友愛関係や、少女キャラクターの自立について描かれていることがわかった。また②資料調査では、90年代の少女マンガ作品に対して現在でもおもに女性向け消費文化の面から注目が集まっており、少女の夢を叶える物語として人気を博していることがわかった。 2021年度は研究の経過報告として、日本児童文学学会中部支部の第95回例会(オンライン開催)にて発表し、出席者からさまざまな意見を受けた。とくに、雑誌の読者共同体ともいえるファンたちについての調査や、雑誌掲載時における人気作への詳細な分析、また作品以外の「ふろく」の存在の重要性について改めて確認した。また、続けておこなっている資料調査を進めた。 これらの研究から明らかとなった課題としては、①分析対象とする3誌の違いについての丁寧な分析、②1誌のなかでの時系列的な作品の変化、③少女マンガにおける「異性愛」の位置づけである。①は、各誌で人気を博していた作品や読者投稿欄の比較分析によって考察を試みる必要がある。②は、90年代という期間のなかで作品の入れ替わりがあり、また時期によって人気のあった作品の違いがあるため、時代の変化を把握したうえで考察する。③は、おもに小学生を対象とするマンガ作品において描かれる「異性愛」の特徴について詳細な分析をおこなう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献調査では、1990年代だけでなく70年代・80年代・2000年代の少女マンガ作品や雑誌に関する論考の収集を中心的におこなった。少女マンガ研究は国内外でおこなわれているが、とりわけ小学生向けの『りぼん』『なかよし』『ちゃお』に関する研究は、まだ明らかになっていないことが多い。とくに、個別の作品や作家に焦点を当てた内容分析はなされているものの、雑誌メディアや読者共同体、90年代の少女文化における3誌の特徴や役割について、社会学的な知見からの学術研究はまだ発展途上にある。今年度の文献調査にて以上のことを確認し、2022年度の研究計画を設計した。 資料調査では、雑誌メディアを中心とする記事の収集のほか、おもに都市圏の美術館などで開催されている企画展の展示内容を確認した。2021年度時点で把握できる範囲の『りぼん』『なかよし』『ちゃお』に関するニュースや記事は、おおむね収集することができた。また関連する企画展では、少女キャラクターの強さや主体性に焦点を当てることで、少女マンガにおけるジェンダー規範や異性愛規範の問題が2021年度現在の状況にアップデートしようとしている様子を確認することができた。これらの調査から、現在にかけても女性たちを惹きつけるメディア文化として、90年代少女マンガが機能していることがわかった。 文献調査・資料調査ともに、2022年度も継続しておこなう予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の調査結果を踏まえ、2022年度は①具体的な雑誌の誌面分析と、②90年代当時にリアルタイムで読者だった女性たちへのインタビュー調査をおこなう。 ①雑誌の誌面分析は、マンガ雑誌のアーカイブ施設である京都国際マンガミュージアム(京都市)、国立国会図書館(東京)のほか、現代マンガ図書館(東京)などマンガ研究施設も拠点にしておこなう。誌面分析では、雑誌各号をとおして頻繁に表紙や巻頭カラーページを担っていた作品や読者投稿欄、作者・編集者のメッセージ欄などを中心的に調査する。また可能な限り、雑誌のふろくに関する調査もおこなう。 ②インタビュー調査では、スノーボールサンプリングにて抽出したインタビュイーに対し、半構造化インタビューを試みる。90年代にリアルタイム読者だった者はおおむね小学生から中学生で、現在は40歳前後となっている。ジェンダーやセクシュアリティに関する教育を大学等で受けてきて、現在の社会的課題にまさに向き合っている世代である。少女マンガ作品の読解をつうじて考えてきたことや現在からみた認識などを丁寧に聞き取り、少女マンガ黄金期といわれる90年代の作品において描かれたジェンダー規範とその影響を考察する。 上記①②の調査を経た研究成果を、日本児童文学学会、日本社会学会、中部人間学会などで報告する予定である。
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Causes of Carryover |
2021年度は新型コロナウイルスの影響で、資料調査や学会参加に関わる出張をおこなう機会をもつことができなかった。なお、2021年度におこなった学会発表はオンライン開催のものであった。そのため2021年度は文献調査や資料調査を中心におこない、予定していた使用額よりも少ない結果となった。 2022年度はマンガ雑誌アーカイブ施設で調査をおこなうため、施設までの旅費のほか、資料閲覧や資料複写に関わる費用が生じる予定である。また複写した資料整理に関する機器も購入する可能性がある。 加えて2021年度は、インタビュー調査の協力者(インタビュイー)への謝礼、音声データのテープ起こし業者への支払いが発生する予定である。また、対面開催となる学会に参加する場合の旅費が発生する予定である。
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