2021 Fiscal Year Research-status Report
ナチュラルサポーターによる自閉スペクトラム症児への日常的支援モデルの構築
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21K02387
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Research Institution | Jumonji University |
Principal Investigator |
伊藤 恵子 十文字学園女子大学, 特別支援教育研究所, 客員研究員 (80326991)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 自閉スペクトラム症 / ナチュラルサポーター / 語用論 / 発話意図 / 日常的支援モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,自閉スペクトラム症(ASD)児のコミュニケーションと関連の深い語用論的能力に対する実証的検討を行い,そのデータに基づいたナチュラルサポーターによる日常的支援モデルを構築し,その効果を検証することである。ナチュラルサポーターとは,養育者をはじめとする家族や保育者などの障害児者と日常をともに過ごす人々である。 なおASD児の語用論的能力に対しては,発話意図に着目した日常場面に近い映像実験及び日常会話分析によって,その特徴を実証的に検討する。発話意図へ着目する理由は,日常場面において,話者の発する言語的意味とその発話意図は必ずしも一致するとは限らず,発話意図を適切に読み取るためには,会話の文脈や話者の表情等の語用論的情報を統合して総合的に判断する必要があるからである。 2021年度は,ASDの診断基準に記載されている自閉スペクトラム症状の程度を測る質問紙である「自閉症スペクトラム指数(AQ)」の総合得点と5つの下位領域(社会的スキル,注意の切り替え,細部への関心,コミュニケーション,想像力)の得点から,ASD児者と定型発達(TD)児者との相違を検討した。その結果,AQ総合得点がASDの識別点以上であっても,AQ下位領域の「コミュニケーション」得点が低い場合は,ASDの診断を受けていないことが分かった。このことから,ASD児者の支援を行ううえで,とくにコミュニケーションに関する支援の重要性が示唆された。 また,発話意図を推測する上で重要な要因である表情の理解実験を,ASD児とTD児に対して実施した。その結果,表情理解に関しての正答率には統計上有意な差は見出されなかった。しかし視線移動や表情変化のある場合,目および顔いずれの領域についても,ASD児はTD児よりも注視時間が短いことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、直接対面での実験の実施が困難になったため、当初予定より、やや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は,さまざまな語用論的情報が埋め込まれた日常生活に近い状況におけるASD児の発話意図推測過程の特徴を明らかにする。そのために,映像を用いた発話意図推測実験を実施し,発話意図を推測する際,ASD児が状況,表情,言語,韻律の何を手がかりとするかに関して,TD児との相違を検討する。その結果得られたASD児の発話意図推測過程の特徴がどのような要因と関連があるのかを明らかにする。関連を検討する要因としては,表情識別課題の得点,「自閉症スペクトラム指数(AQ)」の総合得点と5つの下位領域(社会的スキル,注意の切り替え,細部への関心,コミュニケーション,想像力)の得点,「心の理論」課題の得点,発話意図推測時の状況を判断するための事物や話者の顔や目などに対する注視頻度や時間などを予定している。 得られたデータを基に,ASD児の語用論的能力の特徴を把握し,支援の手がかりを得る。これらにより得られたデータから,ナチュラルサポーターが日常的支援において注目すべき手がかりを明らかしたうえで,日常的支援を実施し,日本版Vineland-Ⅱ適応行動尺度等によってその効果の検証を行い,ナチュラルサポーターによるASD児への日常的な支援モデルを構築する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、学会等がオンライン実施になり、旅費の支出がなくなったためと、対面での実験が困難になったため、購入予定物品および、人件費と謝金の支出がなくなったため、次年度使用額が生じた。2022年度には、対面での実験を実施する予定のため、前年度購入予定であった物品を購入するとともに、人件費、謝金を前年度残額で支出する。また、学会及び研修会への出席のための旅費等にも前年度残額を充てる。
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