2021 Fiscal Year Research-status Report
Education based on Developmental Relationships among Self-Reliance, Manipulation and Cognitive-Verbal Functions in Early Childhood
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21K02405
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 真介 京都大学, 国際高等教育院, 准教授 (60201620)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 幼児期・児童期・青年期の発達 / 自己信頼性 / 手指操作 / 認知・言語機能 / 保育・療育 |
Outline of Annual Research Achievements |
発達過程で、認知・言語機能を含めた個別諸機能の総合的な発達年齢が高いにも関わらず、自己信頼性の発達水準が抑制されている場合に、教育的な援助を必要とする事例が少なくないことに着目した。幼児期から児童期・青年期にかけて、自己信頼性の形成が制約されることで個別の諸機能と自己信頼性の発達とが乖離し、それが発達全体の遅滞をもたらしている可能性がある。発達的な障害の生成の基本機構として、脳機能の問題とは異なるマクロな発達連関に焦点をあて、自己信頼性が個別の諸機能とどのように連関しあっているかについて検討した。 … 2021年度は、①保育機関に在籍する3~6歳児(幼児群)、②公立小中学校に在籍する児童・生徒(児童群)を対象として縦断観察を行い、自己信頼性と社会的交流性の発達連関の過程を検討した。また、③発達的な障害があって特別支援学校に在籍する幼児・児童(障害群)を対象として、自己信頼性の形成を支える保育・療育を試み、貴重な変化が見られたことを確かめた。縦断的な調査によって、自己信頼性の制約が個別機能の発達に与える影響を明らかにし、自分を価値づける自己信頼性と社会的交流性の発達連関をとらえた新たな保育・教育・療育の方法を考察した。また、感染症の流行の影響で社会的な交流性が阻害されている状況の中でこそ、自己信頼性を尊重した援助が重要であることを提起した。 … 本研究の成果は、おもに、①日本応用心理学会編「発達と応用心理学」応用心理学ハンドブック 第5章、福村出版(2022年9月発刊予定)、②筑波大学公開講座「自閉症児の心の発達を学ぶ -発達診断学の知見と実践を通して-」記録集(2022年2月)、③田中真介・乳幼児保育研究会編「発達がわかれば子どもが見える・プラス」ぎょうせい(2022年2月)、及び④田中真介・母里啓子・山本英彦・古賀真子「新型コロナワクチン」(2021年6月)等で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)自己信頼性と個別諸機能の発達の関連性を明らかにするために、手指操作での微細な圧力変動のディジタル信号をパソコン上で解析できる新たな「握り圧計」を開発した。この装置で手指操作の力量成分の時間的な変化を正確に測定して、定量的に波形解析を行うとともに、波形データと手指操作場面の映像データを同時記録し、心身両面の制御過程を精密に評価できるようになった。手指操作の握り圧波形と行動特徴の関連を精緻に考察することによって、自己を価値づける自己信頼性の発達過程を新たにとらえることができた。 … 2)研究の初年度には、特に自己信頼性の発達過程の解明に焦点をあてた。保育・教育及び療育場面での参与観察によって、教育的・臨床的な援助がどのようにして自己信頼性の生成・発展・充実の過程を支えるか検討した。自己信頼性の属性として、①時間的・形成的自己、②空間的・社会関係的自己、③価値的自己の各側面の特質を重点的に観察するとともに、社会的交流性との関連を分析した。 … 3)総合考察:通常の幼児・児童と障害のある子どもたちの行動特徴と発達過程を比較して、発達的な障害の生成の新たな原因を考察し、発達の総合的な機構を検討してきた。自己信頼性の発達の過程及び基本的な形成のしくみが明らかになってきたので、今後はさらに、自己信頼性と個別的諸機能の発達的な連関をとらえた新たな具体的な保育・療育の方法を提起していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
1)幼児期の研究…新型コロナウイルス感染症の影響のために、保育・教育の関連機関での実験・調査が容易でない状況が続いている。そのため初年度には、個別事例の実験・観察資料をもとに、自己信頼性の発達過程を新たに解明していく研究に重点をおいた。次年度には、自己信頼性に揺らぎや遅れのある子どもたちの事例について、各保育・教育機関から保育・療育の経過に関する記録資料の提供を受けて、総合的な考察に生かしていきたい。 … 2)児童期の研究…幼児期の子どもたちをおもな調査対象としてきたが、児童期、思春期までを見通した発達の全体像をとらえた上で、新たにそれぞれの時期の発達支援の方法を考えるために、公立の小・中学校、及び特別支援学校の児童・生徒たちを研究対象として加えて縦断的な調査を行う。自己信頼性に関する基礎研究の成果に基づいた新たな教育的な援助・指導方法を、各学校での教育方法に取り入れてもらうことによって、多くの子どもたちで、長年の登校困難や学力不振の状況が改善するなどの貴重な成果が得られると期待される。 … 3)特別支援学校での研究…通常の幼児・児童の発達経過と比較するために、発達的な障害のある自閉症の幼児・児童を受け入れている特別支援学校に赴いて継続的に参与観察を行ってきた。本年度は、幼稚部と小学部に在籍する子どもたちの中で、とくに自閉症への専門的な援助を必要とする児童の発達観察を行い、自己信頼性に焦点をあてた療育実践の意義と具体的な方法を検討する。 また、新たに小・中学校の児童生徒や特別支援学級に在籍する子どもたちを対象として、自己信頼性と社会的交流性の発達、また精神的な健康度についてのアンケート調査を加えて、幼児期から児童期・青年期を見通した自己信頼性の発達の全体像を新たに描き出す調査研究を行っていきたい。
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Causes of Carryover |
本研究のために購入予定だった機器が製造中止となり、購入することができなかったため、初年度には物品費の支出を少なくした。その剰余分を翌年度の予算に加えることとした。
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Research Products
(5 results)