2021 Fiscal Year Research-status Report
理科の教科書における分類学や自然環境との不整合-最新の研究を取り入れた教育実践-
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21K02429
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
本多 正尚 筑波大学, 生命環境系, 教授 (60345767)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 教科書 / 種分類 / 分布 / 環境 / 亜熱帯 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、現在の小学校・中学校・高等学校の生活科や理科の教科書に記載された生物の種分類について精査し、教科書での生物名と現在の分類学との不整合(生物名が亜種名から科名まで同列に扱われている)、および教科書と各学校を取り巻く実際の自然環境との不整合(亜寒帯や亜熱帯に生息しない生物名がある、授業時期と実際の生物の出現時期が異なる)について、実情を明らかにする。そして、これら二つの不整合を生じさせた分類学上の問題点や学習指導上の要因を明らかにする。また、小学校・中学校・高等学校の現場のニーズに合わせ、尚且つ最新の研究成果も盛り込み、地域に対応した具体的な指導案の考案と評価を行う。特に、特定の分類群を一括りに扱うことは生物多様性の過小評価に繋がる可能性があるので、今後の教科書等での種名の使用法についても提言を纏める予定である。 初年度については、新型コロナウイルス感染拡大の影響により予定していた現地での聞き取り調査等が実施できず、一部内容を変更して、電子メールによるアンケート調査と教科書の分析を中心に行った。その結果、教科書に掲載の生物の中には沖縄県では馴染みが薄く、実感がわかないものがあること、教科書に掲載されている生物が、その単元を習う時期にはシーズンが過ぎてしまい、使用することができないこと等が明らかになった。また、小学校の生活科の教科書において同一ページに挙げられている動物は、亜種、種、数百種を含む科、数千種を含む複数の科をまとめた呼称が用いられていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大の影響により学校の所在地や学習する時期と実際の自然環境との不整合についての教育現場での聞き取り調査が行えなかった。そこで、小学校の生活科の教科書の分析と、沖縄県の学校教員に対して電子メールを用いたアンケート調査を主に行った。 その結果、教科書に掲載される生物の中には沖縄県では馴染みが薄く、教師も実感がわかないものがあること、教科書に掲載されている生物が当該単元を習う時期にはシーズンが過ぎてしまい、使用することができないこと等が明らかになった。これは、同じ日本であっても南北に長く、気候帯も亜寒帯・温帯・亜熱帯と多様であるため、教科書に掲載されている種とは異なる種が分布している地域があること、また教科書で習う時期と動物の出現時期がずれてしまう地域があることを示しており、今後も同様な例が見つかることが予想される。 一方、教科書などに分類階級の不整合があることが明らかになった。例えば、小学校の生活科の教科書において同一ページに挙げられている動物は、分類学上の階級がバラバラで、亜種、種、数百種を含む科、数千種を含む複数の科をまとめた呼称が「同列」に用いられていること、昆虫のような身近な生物のほうが細かく分類されていること等が明らかになった。生活科を指導する上では問題ないが、生物学上は階級を揃えることが望ましいと判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度については、まず、A.教科書の分析1:動物名と分類階級の不整合の調査では、小学校・中学校・高等学校の生活科・理科・生物基礎・生物に書かれている動物名をリストアップし、分類学上の分類階級との不整合(動物名が亜種名から科名等まで同列に扱われているか)を精査する。B.教科書の分析2:動物名と自然環境との不整合の調査(分布)では、教科書に掲載される動物は主に温帯性であり、亜寒帯の北海道や亜熱帯の南西諸島においては、分布する動物種が異なるので、この自然環境との不整合(特定の地域に生息しない動物名があるか)を明らかにするため、Aでリストアップした各動物の分布域を精査する。C.教科書の分析3:動物名と自然環境との不整合の調査(出現時期)では、同じ温帯でも日本は南北に長く、同じ授業進行だと、その単元を学ぶ時期に教科書中の動物が観察できないので、この不整合(授業時期と実際の動物の出現時期が異なるか)を調査する。次に、D.生徒へのアンケート調査:実体験と種認識では、生徒に対してアンケート調査を行い、どれだけの種名が答えられるかを調べる。同時に、森林の少ない都市部や森林や生物の多い地方部等、これまでの生徒の実体験も調査し、その違いと生物認識の違いとの関係を分析する。E.教員への聞き取り調査:指導上の問題点では、小学校・中学校・高等学校への電話・学校訪問によるインタビュー調査や郵送でのアンケート調査を行い、実際に分布する動物との不整合や年間学習指導計画との不整合等、指導上の問題点を明らかにする。
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Causes of Carryover |
今年度に関しては、新型コロナウイルス感染拡大の影響のため、予定していた現地での聞き取り調査や野外での実態調査が全く行えなかった。調査を強行することも考えたが、公的な資金であること、さらには調査地が沖縄であり、他の地域に比べ人口あたりの感染者数が多いこと、そして移動自粛要請が出ていたこと、さらには学校を訪問して万が一新型コロナウイルスを持ち込んでしまった場合、今後の調査活動にも大きな影響を与えかねないこと等から判断し、自粛せざるを得なかった。このため旅費として使用予定であった予算が次年度使用額として生じた。 次年度に関しては、従来予定していた教科書の分析に加え、今年度に予定したにも関わらず調査を行えなかった現地での聞き取り調査や野外での実態調査を行う。したがって、次年度に繰り越す金額については、主に調査旅費の予算として使用する。
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