2023 Fiscal Year Research-status Report
「造形的な見方・考え方」を指導する造形・美術教員のための「学習プログラム」の開発
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21K02430
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
内田 裕子 埼玉大学, 教育学部, 教授 (40305024)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大岩 幸太郎 大分大学, 教育学部, 名誉教授 (90223726)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 美 / 美的範疇 / 美的概念 / 多様 / 自己同一化 / 個性 / 芸術 / 数式 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は5件の論文に発表した次の研究を行った。 1)小学校から高等学校迄の学習指導要領に記される「造形的な見方・考え方」に通底する学問的根拠となる美に関して,大学生が有する知識内容を確認する調査を行い,それに基づき学校教育で必要とされる美の学習内容を検討した。 2)知性だけでは捉えられない対象や事象を,身体を通して知性と感性を融合させながら捉える方法とされる「造形的な見方・考え方」を学習する教材として「数式による感性の表現」を開発し,実施結果に基づき開発教材の可能性及び「造形的な見方・考え方」を学習する教材の内容を検討した。 3)多様性の理解を目指し,その鑑賞においては知性と感性の融合が必要とされる現代美術における「造形的な見方・考え方」を検討することを目的に,現代美術における多様性の現れ方を{協働、共同、還元主義、本質主義}の観点から分析した。 4)美の探究が「感情も知性も両方働かせて行う探究」であることから,自己保存のために美を探究する「美術教育療法」は「造形的な見方・考え方」の探究と看做せることから,美術教育療法に資する「造形的な見方・考え方」の学習方法及び内容を検討するため,不安の構造や種類,不安に対する心理特性や測定及び治療法を調査し,更に造形美術活動によって不安の解決を試みる美術家の例を手掛かりにして美術教育療法における「自己同一化」の在り方を検討した。 5)教員が児童生徒の個性を理解する「学習プログラム」の作成に必要な学習方法・内容の素材を得るため,大学生が好む「メディアに登場するキャラクターの行動」とその理由を示すエピソードの調査を行うと共に,大学生はそのキャラクターが登場する漫画等の一般に「サブカルチャー」と捉えられている領域の作品を,美を存在理由とする「芸術」作品と看做しているのか否かを確認するため調査を行い,それに基づき大学生が捉える芸術の概念を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画調書に記載した研究内容は概ね予定通り遂行している。しかし,研究を進める中で明らかになって来た,本研究が主題とする「造形的な見方・考え方」に関しては,学習指導要領においてのみならず過去の文献や研究においてもその概念が明確にされていない点から,本研究の結果を充実させるには「造形的な見方・考え方」に関与するものの現代社会では定義が困難になって来た「美」について検討する必要が生じ,美の概念に関わる美学や美術史,心理学や脳科学等における美の捉え方についての検討も行っていることが,上記の進捗状況の主な理由である。 他方,現在の社会では「造形的な見方・考え方」に含まれる内容が広がって来ている点も理由に挙げられる。例えば,AIの脅威が言われる様になった現代においては人間に可能な「創造」に注目が集まる様になったため,造形美術教育にその育成が期待される「アート思考」や「デザイン思考」と呼ばれる思考法を「造形的な見方・考え方」に含めたり,或いは,環境への適応が困難な不登校やひきこもりが増加の一途にある現代においては,芸術が予防やケアに寄与する点に注目が集まり,特に,予防に大きな効果があると考えられる多面的に対象を捉える「造形的な見方・考え方」の習得が重視されたりする様になった。この様に,多様な内容を含む様になった「造形的な見方・考え方」を習得するには,従来の伝統文化の学習に止まらず,その学習を通じて得た能力を発揮する方法についても習得する必要が生じ,その結果,開発する「学習プログラム」においても,それらを含めた内容にする必要があると判断し,現在,研究を進めていることがその具体的な理由と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は「学習プログラム」の完成に向けて,主として次の3点を計画する。 1)これ迄,実施を延期して来た海外の美術施設での調査及び資料収集の実施を検討すると共に,海外での実施が困難な場合は,COVID-19が収まって来たことを受けて国内でも新たな種類の美術展や造形ワークショップが開催され始めた状況を鑑みて,国内の美術施設での調査及び資料収集に切り替えて実施を検討し,海外若しくは国内のいずれかでの調査及び資料収集を実施する。 2)「学習プログラム」の開発においては,図画工作科や美術科の各領域における発達過程について明らかにしておく必要があるが,研究の結果「造形遊び」の領域に関しては幼稚園児迄の発達過程しか明確になっていないことが判明したため,「遊び」の中でも特に造形美術教科に関わりの深い「創造的な遊び」の小学生以降の発達過程を明らかにする。 3)学習指導要領において,表現と鑑賞の両方の内容を通して教員が指導する必要があると記される「共通事項」の「形」に関する「造形的な見方・考え方」を学習する教材の1つの典型と考えられる「同一対象の異なる表現形態」に関する調査を行う。 これ迄行って来た研究内容に以上の研究の結果を加えて,現在の社会的要請に基づき範囲が広がることになった「造形的な見方・考え方」の概念及び内容を整理した構成に基づく「学習プログラム」を完成させる。
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Causes of Carryover |
当初の計画では,美術館等における「知性と感性を融合させる方法」として有効なワークショップ等の実践に関する調査・資料収集の他,研究成果の発表等のために海外旅費を使用することにしていたが,前年度と同様,当該年度も前半はCOVID-19の感染状況への不安があった上,後半になると急激な円高により当初の見積もりでは予定していた渡航が困難となったことが主な理由である。但し,その一方で,本研究の主題である「造形的な見方・考え方」に関しては内容を充実させ,美学や美術史,更には現代美術の「造形的な見方・考え方」についての考察にまで範囲を広げることが出来たため,開発する教材の種類が増える可能性も見られた。 そこで,今後,感染症は元より円高への懸念が払拭された場合は,当初の予定通り,上記の研究のための渡航費用(旅費)として使用する予定であるが,仮にそれが困難である場合は,調査対象を国内の美術施設に切り替えて旅費として使用すると共に,内容が広がった「造形的な見方・考え方」の学習に関わる「学習プログラム」の内容を可能な限り増やし,またその結果を広く知って貰うため「学習プログラム」の冊子版の発行費用として使用する予定である。
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Research Products
(8 results)