2023 Fiscal Year Research-status Report
1940~1950年代の音楽教育と子ども―学校文書記録と人々の記憶による実態解明
Project/Area Number |
21K02445
|
Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
嶋田 由美 学習院大学, 文学部, 教授 (60249406)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 学校日誌 / 音楽教育 / 唱歌 / 儀式 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題で設定した研究推進のための3つの柱、即ち①学校文書類の保管状況の全国的な調査、②高齢者への聴き取り調査、③各地の公文書館等での資料調査のうち、令和5年度には、既に初年度に調査を終えた①以外の、②高齢者への聴き取り調査、および③文書資料の調査を集中的に行うことができた。 まず②に関しては、当該年度には東京都八丈島において国民学校時代を過ごした世代への聴き取りの機会を得ることができ、終戦前後の教師の言動や諸儀式のみならず学校生活全般に関する聴き取りができた。聴き取りからは、八丈島を離れて集団疎開をせざるを得なかった子ども達が集団で歌うことによって少国民に育成されていく様相が明らかになると共に、終戦に至る過程で軍国少年の育成に邁進していた教師の言動が終戦と同時に180度転換されたことによる教師や教育全体への不信感なども語られた。 ③の文書資料調査に関しては、安曇野市文書館、沖縄県立図書館などの公的施設での資料調査と、戦前の学校文書を保管している小学校における学校日誌の調査を並行して行った。沖縄県立図書館では小学校の百年史を中心に、座談会の記録や卒業生の学校生活に関する思い出の寄稿などから沖縄各地の小学校における戦前、戦中の諸儀式に向けた唱歌教育の様子が考察された。 また安曇野市文書館への3回にわたる資料調査および松本市立波田小学校をはじめとする長野県下小学校での学校日誌の調査から、1942年以降、長野県内の学校儀式で《君のため》という曲名の儀式歌が奉唱されていたことが明らかとなり、次年度以降、この楽曲の扱いを中心とした研究の発展が計画されることとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍を経て戦前、戦時期の学校教育を経験している高齢者への聴き取り調査が一層、困難な状況になってきている中でも、八丈島在住の高齢者への聴き取りを実施することができた。また安曇野市文書館や沖縄県立図書館での資料調査や、公立小学校に保管されている学校日誌の調査等を行い、今後の研究発展に繋がる貴重な資料を発掘することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
当該年度の学校日誌等の調査から、1940年代前半の長野県においては、諸儀式である特定の楽曲を奉唱させることによって集団としての帰属意識を持たせようとした傾向が他府県よりも一層強くあったと想定され、歌うことが少国民の育成に大きな作用を及ぼすと考えられていたのではないかという仮説が立てられた。そこで最終年度にはこの長野県下の小学校における県独自の儀式歌の制定過程と儀式でのその扱われ方の変遷を考察することを通して同県における儀式と歌の関係性を明らかにする。 長野県内の学校においては四大節の定められた儀式歌の他に、児童生徒も参列をした戦没者の町村葬における《殉国勇士を弔ふ歌》の扱いに特殊性が見られることを本申請課題の初年度から第2年次の研究において明らかにしてきた。一方、1942年以降は、長野県内の学校日誌の式次第に《君のため》という曲名が散見されるようになるがこの曲は「信濃宮御歌」とも記されることがあったように信濃の国にゆかりのある宗良親王の和歌を題材にした歌であることが分かっている。この《君のため》の楽曲制定の過程や学校におけるその扱いの様相を可能な限り多くの学校日誌の式次第や新聞記事などから明らかにしていくことは、戦時期の県内小学校で儀式に際して唱歌に求められた役割を考察する上でも必須の課題であると考え、研究を推進する予定である。
|
Causes of Carryover |
本申請課題が採択されて以降のコロナ禍により、終戦前後の国民学校や小学校で教育を受けた方々への聴き取り調査を自粛せざるを得ない状況が続き、調査のために予定していた出張旅費等を次年度使用することとなる状況が続いた。令和5年度に関しても同様の状況により、一部、次年度使用が生じた次第である。 令和6年度には本申請課題の総集成としての論文作成を予定しているので、その際の追加の資料調査等に有効に使用する予定である。
|